本研究課題では、サクラ属のS-RNase依存性自家不和合性にみられる特異な「自己認識」システムの分子機構解明を目的に、作業仮説「自己特異的ジェネラルインヒビター(GI)分解モデル」を生化学的に検証することを計画している。本仮説では、和合花粉管内ではジェネラルインヒビター候補であるSLFLおよびSFBLが形成するSCF複合体がS-RNaseを認識し、S-RNaseがユビキチン化されることを想定している。一方、不和合花粉管内では花粉側因子であるSFBが形成するSCF複合体が自己S-RNaseと結合するSLFLおよびSFBLを認識し、SLFLおよびSFBLがユビキチン化されることを想定している。最終年度にあたるH30年度には、A)カイコ発現系を用いた組換えS-RNaseの作出、B)組換えS-RNaseと結合する、和合花粉管・不和合花粉管タンパク質の解析を行った。 A)カイコ発現系により、3種の組換えS-RNaseの可溶性発現に成功した。S-RNaseとの結合が報告されている組換えSLFL2タンパク質との結合を調査したところ、精製した組換えS-RNaseはいずれも組換えSLFL2と結合を示した。B)免疫沈降物のMS/MS解析によって、カイコ発現組換えS6-RNaseと結合する和合花粉管タンパク質の網羅同定を試みたところ、SLFLおよびSFBLが形成するSCF複合体構成要素、不和合反応に必須であることが示唆されているMGST、および機能未知のDnaJ様タンパク質が同定された。次に、不和合花粉管タンパク質に対して組換えS6-RNaseをベイトとした免疫沈降を行い、SFBが自己特異的にS-RNaseと結合しているかウェスタンブロットにより検出を試みた。しかしながらSFBとS-RNaseの自己特異的結合は確認できなかった。
|