研究課題/領域番号 |
16H06185
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
宮下 脩平 東北大学, 農学研究科, 助教 (60556710)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 数理モデル / 抵抗性 |
研究実績の概要 |
1)ウイルスがもつ多数決型意思決定システム阻害の試み これまでに、多数決型の意思決定システムがウイルスにとって適応的であることをシミュレーションによって明らかにし、実際にそのようなシステムをウイルスがもつことをキュウリモザイクウイルス(CMV)を用いた実験で示した。多数決型の意思決定を阻害する目的で機能欠損型細胞間移行タンパク質(MP)を蓄積するNicotiana bentahamianaを複数系統作出し、これらの植物にCMVを接種したところ、残念ながら細胞間移行の阻害等は観察されなかった。 2)ゲノム分節の比率の適応についての検討 CMVの三分節のゲノムRNAについて比率を変えて植物体やプロトプラストに接種し、それらの最終的な蓄積比率をノザンブロット法で検討した。接種葉および接種プロトプラストからバルク抽出したRNAでは、三分節の蓄積比率は接種源の比率に関わらずほぼ一定となった。これは1回の細胞感染の間に細胞集団中の三分節の蓄積比率がほぼ一定になることを示す。一方、感染プロトプラストを1細胞ずつ回収して三分節の共通領域をRT-PCR増幅して産物の配列を調べたところ、三分節の比率は細胞ごとに大きくばらつくことが示された。 3)「小さいMOI」は植物による抵抗性の標的である これまでに植物ウイルスが細胞間移行する際のMOIが小さいことは、確率的に生じる「できそこない」を排除するための社会的ルールとして機能することを提案している。植物がレセプター型抵抗性遺伝子(R遺伝子)産物でウイルスを認識した場合、抵抗性が誘導されてウイルスの封じ込めが起こるが、この際にMOIがどのような値を取るかを調べた。その結果、R遺伝子による抵抗性誘導時にCMVのMOIが低下することが明らかになった。このことから、ウイルスの社会的ルールである小さいMOIは植物による抵抗性の標的になっていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)については、期待していた結果が得られず大変残念である。今後の推進方策にも記載するが、機能欠損型MP発現N. benthamiana形質転換体の作出と並行して正常型MP発現形質転換体も作出しており、これを利用した実験により挽回したい。2)については、興味深い結果が得られたものの、植物育成装置の故障などにより期待したほどに進まなかった。3)については本研究開始当初は予定していなかったものの、社会的ルールが植物の抵抗性の標的となっていることを示すことができ、予定外の大きな進展が得られたと言える。これらの状況を総合的に考えて、やや遅れていると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
1)CMV MPを標的とした社会的ルール阻害 昨年度まで、機能欠損型MPを発現するN. benthamiana形質転換体を作出してCMVのもつ多数決型意思決定システムを阻害することを狙った研究を行ってきたが、これについて現時点では期待通りの結果は得られていない。今年度は、使用するウイルスのコンストラクトを変える、野生型ウイルスを使用するなどしてさらに検証する。また、上述の形質転換体作出と合わせて、野生型MPを発現する形質転換体も作出している。この形質転換体ではCMVのMOIが大きくなる可能性があり、これについて検討するとともに、その場合に期待される機能欠損変異体の蓄積についても検討を行う。 2)ゲノム分節の比率の適応についての検討 細胞感染において三分節の蓄積比率が決定する過程や機構について調べるため、各分節に10塩基のランダム配列タグを挿入したウイルスRNAライブラリを作出する。これをプロトプラストに比率を変えて接種し、感染細胞を1細胞ずつ回収して蓄積したウイルス分節のもつタグ配列の種類、頻度を調べる。これにより、細胞感染成立のごく初期に起こる創始者の決定が、最終的な蓄積量にどのような影響を与えるかを明らかにするとともに、創始者決定後の子孫ゲノム蓄積がどのような過程で起こるかを知るための手掛かりを得る。これらをもとに、三分節ゲノムの比率決定機構について数理モデルを活用して明らかにし、その弱点を検討する。また、接種葉においても分節比率がどのような過程を経て一定になるのかを検討する。具体的には、分節比率がプロトプラスト感染のように個々の細胞感染レベルで決まるものなのか、選択を経て決まる(すなわち、適切な比率をもつものほど感染域拡大が速く、優先するようになるのか)を検討する。
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