研究課題/領域番号 |
16H06187
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
三輪 京子 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (50570587)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ホウ素 / 植物細胞壁 / ペクチン質多糖 / ラムノガラクツロナンII / シロイヌナズナ / 変異体 |
研究実績の概要 |
肥沃度の低い土壌環境での持続的な植物生産には、成長に必要な無機栄養の要求量を低下させた植物の開発が重要である。本研究では、植物の必須元素のホウ素を対象とし、植物個体のホウ素要求量を低下させる遺伝子変異の同定を目的とした。シロイヌナズナホウ酸輸送体機能欠損株に変異を導入し、「地上部ホウ素濃度は低下したままであるが成長が回復した」ホウ素要求量が低下した抑圧変異株を先行研究で単離し、すでに4株の原因変異が糖転移酵素の変異であることを明らかにした。引き続き、抑圧変異株の原因遺伝子の同定と生理学的な解析を進めた。 抑圧変異株#55の原因が、翻訳伸長因子の活性化酵素遺伝子の変異であることを、野生型遺伝子断片を導入した形質転換体の作出によって明らかにした。これまで抑圧変異株の原因として、ホウ素の作用点である細胞壁合成に関連する糖転移酵素遺伝子の機能低下・欠損が同定されてきたが、本変異株#55ではそれらとは全く異なる翻訳過程に関与する遺伝子の変異が原因として見出された。さらに、抑圧変異株#186の原因がヌクレオチド代謝に働くことが予想される酵素遺伝子の変異であることを明らかにした。#186変異株では糖ヌクレオチド代謝を通じた細胞壁変化が推測された。抑圧変異体#156は3番染色体に原因変異が存在することを確定させ、これまでとは異なる新規の遺伝子が原因であることが考察された。 既に原因遺伝子が機能未知の糖転移酵素であることが示された変異株#101を対象として、野生型背景植物の細胞壁の解析を行ったところ、ホウ素の結合部位であるRG-IIにおける特異的な糖の減少、ホウ素十分条件での細胞壁ホウ素濃度の減少が認められた。これは、先に解析を行った他の糖転移酵素遺伝子の変異株一株と同様の結果であり、RG-IIの減少がホウ素要求量の減少につながることを支持していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に沿って、抑圧変異株の遺伝子の原因変異の同定が進み、3株の原因遺伝子の同定に至った。特にこれまで同定された糖転移酵素遺伝子とは異なり、翻訳に関与する遺伝子の変異が原因であることを見出す成果となった。他の抑圧変異株についても原因変異が座上する染色体位置が絞られ、既知の原因遺伝子とは異なる位置であることから、新規の原因変異の同定が期待された。また、原因遺伝子が同定された変異株では、細胞壁に注目をした分析が進み、変異株に共通した性質としてホウ素の結合部位であるRG-II特異的な糖の減少が認められ、RG-IIの減少がホウ素要求量を低下させる機構の中心であることが考察された。
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今後の研究の推進方策 |
ホウ素要求量が低下した分子機構を解明することを目指し、各変異株に対して解析を進める。糖転移酵素の機能低下・欠損が原因である変異体に対しては、ホウ素の作用点である細胞壁に焦点を当てて解析を進める。引き続き、(a)ホウ素濃度の定量、(b)RG-IIのホウ酸架橋率の測定、(c) RG-II特異的な単糖の定量、(d)細胞壁構成単糖の分析、(e)蛍光免疫染色を行い、細胞壁多糖の量と分布の変化を明らかにする。1つの酵素遺伝子については機能解析をさらに進めるため、過剰発現株を作出し、細胞壁の分析を進める。 翻訳に関する酵素遺伝子が原因であった変異株に対しては、低濃度ホウ素条件および十分条件で翻訳量解析に取り組み、変異株における翻訳変化を明らかにする。 原因遺伝子が絞り込まれた変異株については、T-DNA挿入株の取得を行い、原因変異を同定する。
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