肥沃度の低い土壌での持続的な植物生産には、成長に必要な無機栄養の要求量を低下させた栄養欠乏耐性の植物の開発が重要である。本研究では、植物の必須元素のホウ素を対象とし、植物個体のホウ素要求量を低下させる遺伝子変異の同定を目的とした。シロイヌナズナホウ酸輸送体機能欠損株bor1-1に変異を導入し、「地上部ホウ素濃度は低下したままであるが成長が回復した」ホウ素要求量が低下した抑圧変異株を先行研究で単離した。これまでに6株の変異の原因遺伝子を同定した。本年度も抑圧変異株の原因遺伝子の解析および分子機構の解明を進めた。 抑圧変異株#156の原因変異の解析では、異なるF2集団を用いて遺伝子マッピングを改めて実施し、三番染色体の下腕の4遺伝子に候補を絞り込んだ。#156の低濃度ホウ素条件での葉の展開改善は水耕栽培においてbor1-1背景およびbor1-1を除いた野生型背景の双方で観察された。ホウ素十分条件での成長抑制等の顕著なトレードオフが観察されなかったことから、#156変異がホウ素欠乏耐性植物の作出に有用な変異であることが示された。 抑圧変異株#55では原因変異が翻訳伸長因子の活性化酵素遺伝子の変異であることを先に明らかにした。変異株で翻訳量が変化している遺伝子を明らかにするため、低濃度ホウ素条件および十分条件での網羅的な翻訳量解析(リボソームプロファイリング)を行った。その結果、これまで明らかにされたホウ素欠乏耐性に関わる細胞壁合成関連遺伝子やホウ酸輸送体遺伝子の翻訳量には違いが認められず、#55の要求量低下のしくみが既知の細胞壁変化や輸送強化ではない可能性が支持された。環境応答や生物ストレス応答に関係する遺伝子群において翻訳量変化が認められ、低濃度ホウ素条件下でのストレス応答遺伝子の翻訳量抑制が成長改善に結びついた可能性が考察された。
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