研究課題/領域番号 |
16H06188
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
中尾 淳 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (80624064)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放射性セシウム捕捉ポテンシャル / 黄砂雲母 / 酸素同位体比 / K-Ar年代法 / 14C年代法 / XRD |
研究実績の概要 |
1.黄砂雲母が日本の土壌の RCs 固定容量を引き上げた累積効果の推定:熊本県・阿蘇山の西側において、3万年前から現在にかけて地表に降下・堆積した、火口からの距離および層厚が異なる火山灰累積層(地点A;火口距離20 km 層厚4 m、地点B;火口距離30 km 層厚2 m)を対象に、黄砂サイズの微細粒子(<20 μm)のX線回折に基づく鉱物組成解析、放射性セシウム捕捉ポテンシャルによるRCs固定能評価、酸素同位体比に基づく石英の起源推定,K-Ar法によるK含有鉱物の年代推定を行った。その結果、1)3万年分の火山灰累積層に含まれる微細雲母の量は、場所に寄らず約50 kg/m2とほぼ等しく、2)黄砂の飛来量が増大する最終氷期最盛期(約2万年前)の火山灰累積層で雲母含有量が最大となり、黄砂雲母の混入量に比例してRCs固定能が高いことが明らかになった。また,石英の酸素同位体比は,地点・層位によらず16‰付近(黄砂の主要起源地とされるゴビ砂漠のものとほぼ同様の値)のほぼ一定の値を取り,K-Ar年代は火山灰体積年代よりも明らかに古い値を示した。このように,本研究の基軸仮説を強く支持する明瞭な分析結果を得ることができた。 2. 福島の農耕地作土における黄砂雲母量および RCs固定容量の推定:H28年度11月に福島県浜通りの沖積地,低位段丘,中位段丘に分布する除染済み農耕地計174地点から表層土壌(0-15㎝)を採取し,風乾・篩別等の試料調整を実施した。各土壌に含まれる137Cs濃度についてNaIシンチレーションカウンターを用いて調べるとともに,交換性Kの測定を実施するなど,土壌の基本情報を把握することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は当初の計画以上に進展している。理由は以下のとおりである。 1.黄砂雲母が日本の土壌の RCs 固定容量を引き上げた累積効果の推定:予定していた全ての試料採取地から,目的の土壌を採取し分析試料とすることができた。H28年度に分析予定であった掛谷露頭(3万年~13万年の期間に堆積した累層)については,分析途中ではあるものの,H29年度に実施予定であった熊本県・阿蘇山の2地点の累層の分析については,前倒しで全て実施することができた。その結果,3万年分の火山灰累積層に含まれる微細雲母の起源が黄砂粒子であり,この黄砂雲母の量だけで、土壌のRCs固定能が規定されていることを示すことができた。このように,本研究の基軸仮説を強く支持する明瞭な分析結果を得ることに成功している。 2. 福島の農耕地作土における黄砂雲母量および RCs固定容量の推定:H28年度11月に福島県富岡町の許可を受け,福島県浜通りの沖積地,低位段丘,中位段丘に分布する除染済み農耕地計174地点から表層土壌(0-15㎝)を採取し,風乾・篩別等の試料調整を実施した。当初の予定では,未除染土壌の採取を計画していたが,汚染レベルが高く実験利用が困難であるため計画を変更し,除染済み農地から土壌を採取した。なお,富岡町への聞き取りから,除染の際に利用した客土は山砂であり,<20μm以下の粒子はほとんど含まれないことが確認されたため,本実験を行う上で支障はないと考えている。各土壌に含まれる137Cs濃度についてNaIシンチレーションカウンターを用いて調べるとともに,交換性Kの測定を実施するなど,土壌の基本情報を把握することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1.黄砂雲母が日本の土壌のRCs固定容量を引き上げた累積効果の推定 平成29年度は,約13万年前から3.7万年前の間に降下した火山灰累層(島根県・掛谷露頭)から採取した土壌を対象に,年代不明の層から分画したヒューミン(腐植)を用いた14C年代測定を行い,各累積層を形成する火山灰の年代を精密に分析する。また,有機物分解と粒径分画を行い,黄砂の最多粒径である<20 μmの粒子を分画し,この画分について鉱物組成解析(XRD,酸素同位体比,K-Ar法など)およびRCs固定能の分析に供試する。なお,重量あたりで求めた分析値を体積換算するために,各層の土壌の仮比重も測定する。 2.福島の農耕地作土における黄砂雲母量およびRCs固定量の定量 H29年度は,福島県浜通り広域の沖積地,低位段丘および中位段丘の農耕地より採取した表層土174点を対象に,放射性セシウム捕捉ポテンシャル(RIP)の測定や,すでに汚染として含まれる137Csの脱着試験を行うことで137Csの吸脱着特性を明らかにしていく。また,同じ土壌試料群について<20μm粒子を分画し,X線回折分析による粘土鉱物組成の解析や,選択溶解法による雲母および石英の量を推定する。
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