古典的なセントラルドグマにおいて単にタンパク質の鋳型として考えられてきたmRNAが、他のmRNAと塩基対形成して発現を制御することが明らかになってきた。本研究では、大腸菌やサルモネラをはじめとする通性嫌気性腸内細菌科細菌のTCAサイクル酵素群をコードするsdhCDAB-sucABCDオペロンmRNAの3'末端領域から生成するsmall RNA RybD (SdhXと命名) が、酢酸キナーゼをコードするackA mRNAの翻訳開始領域と塩基対形成して、翻訳を抑制することを明らかにした。サルモネラにおいてsucD 3'末端領域を削除もしくは一塩基変異を導入した変異株ではC末端にFLAGを付加したAckAのタンパク質量が増加することをウェスタンブロット解析で示した。さらに、GFP翻訳融合レポーターを用いた発現解析により、サルモネラではackAに加えて嫌気性フマラーゼをコードするfumBと、ackAに隣接する機能未知遺伝子yfbVが同様のメカニズムで制御されることを示した。しかしながら、大腸菌ではfumBとyfbVが塩基対形成領域の変異により制御されていないことを部位特異的変異導入により実証した。一方、大腸菌ではsucD 3'末端領域が新たにギ酸デヒドロゲナーゼをコードするfdoGとカタラーゼをコードするkatGと塩基対形成する塩基配列を獲得し、転写後レベルで制御していることを明らかにした。以上から、RNA制御因子の標的mRNAにおける変異の蓄積が転写後制御の欠落を、mRNAの3'末端領域における変異の蓄積が新たな標的mRNAの制御能の獲得を引き起こし、中心代謝経路のmRNAネットワークが多様化することが示唆された。以上の研究成果を2018年12月にNucleic Acid Research誌に論文発表した。
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