研究課題/領域番号 |
16H06193
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
岡田 洋平 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80749268)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ反応場 / 環状ペプチド / 液相化学合成 |
研究実績の概要 |
従来の医薬品のほとんどは,分子量が500程度までの低分子である.低分子医薬では化学合成による大量供給が可能であるという利点があるものの,化合物にコンホメーションという概念が乏しく,作用の選択性には限界があった.一方で近年では抗体を医薬品として用いる研究が盛んに進められており,その作用には圧倒的な特異性が得られる.しかしながら製造には遺伝子工学的な手法が求められるため,大量供給は困難であった.このような学術的背景を踏まえて,近年では中間サイズの中分子を医薬品の候補化合物として用いる研究開発が進められている.中でもペプチドは中分子の基軸を為す化合物であり,大量供給可能な化学合成法の確立が急務となっている.本研究では,古くから広く用いられてきた固相ペプチド法からの脱却を目指し,新たな液相ペプチド合成法の確立を目指している.特に化学合成にナノ反応場の概念を取り入れることにより,通常の均一液相反応とは異なった反応性や効率の実現を目指している.加えてペプチドを医薬品として用いる場合には,天然にはない特殊アミノ酸や化学修飾を施すことが効果的である.ペプチドの側鎖にはチロシンやトリプトファンなどの酸化還元に弱い構造もあることから,化学修飾は穏やかな条件下で実施する必要がある.アスパラギン酸やリシンなどの酸塩基性を有するアミノ酸残基はその側鎖を保護されていることから,側鎖保護基にも配慮が必要である.このような背景を踏まえて,2年目となった平成29年度には,ペプチド合成のための新たな機能性担体の設計・合成を実施するとともに,ペプチド骨格を有する核酸アナログであるペプチド核酸の化学合成法の確立を行った.加えてナノ反応場の創出を目指した高分散性ナノ粒子の開発や光を用いた穏やかな化学反応の研究も実施し,これらの成果は10報の原著論文ならびに1報の総説として発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目となった平成29年度には,初年度に導入したドラフトチャンバーや紫外可視分光光度計,そしてポテンショ/ガルバノスタットなどの設備備品によって実験環境が整備されたこともあり,高い生産性・効率で当該研究を進めることができた.まずは本研究においてペプチドを液相化学合成する上で鍵となる可溶性担体について,新たな機能性を有する疎水性ベンジルアルコールの開発に成功した.化学反応においては反応の進行を効率的にモニタリングすることが極めて重要であり,本研究で開発した担体は特異な蛍光性を有することから,高感度検出が実現できる.加えてこの担体は酸に対する適度な耐性を有していることから,合成の途中段階においてはしっかりと担体としての役割を果たし,そして最終段階においてはきっちりと切り離すことができる.この成果はWiley社のAsian Journal of Organic Chemistry誌に掲載されるとともに,同誌のCover Pictureに選出された.また,ペプチドの効率的な液相化学合成においては,単なる均一な系ではなくナノ反応場を採り入れた新たな手法が有用であると期待される.この目的のために,ナノ粒子を反応場として取り入れることを目指して,粒子の高分散に関する研究を実施した.反応場として界面を活かすためには,粒子はナノサイズで均一に分散していることが必要不可欠である.しかしながらナノサイズの粒子は一般に付着凝集性が高く,お互いにマイクロ・ミリサイズへと固まってしまう.これに対し,適切に設計されたリガンド分子を表面に修飾することによって,高い分散性を維持できることが見出された.酸化物や金属担体のナノ粒子について,シングルナノサイズあるいは10-20 nmの範囲でこれらの粒子を安定分散させることに成功している.反応場としての広い応用が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者これまでに,疎水性ベンジルアルコールを可溶性の担体として用いるペプチド液相化学合成法の研究開発を推進してきた.特に本研究において,これまでのベンジルアルコールと異なる新たな担体の設計・合成や,機能性の付与に成功している.今後はこれらの担体を環状ペプチドを含む特殊ペプチドの化学合成に特化する形で研究開発を進めていきたいと考えている.しかしながら担体の構造は機能性に直結するため,全く異なる構造のものを採り入れることが難しい.この点に関して,研究代表者は同様にベンジルアルコール骨格を有している担体であっても,その芳香環置換基の数ならびに位置を調整することで機能性をチューニングすることが可能となることを見出している.これまでの知見を活かし,より高濃度で特殊ペプチドを大量供給できる手法の開発に取り組んでいく.1年目ならびに2年目の研究において,ペプチドの液相化学合成ではその物性もまた大きな問題となることが見出された.特に凝集性の高い配列の場合には,合成過程において反応溶液が流動性を失い,化学反応が停止してしまう.残念ながら,このような配列依存的に物性は現時点では合理的な予測が極めて難しく,実際に作ってみるまでわからないということが実情である.このような課題に対して,研究代表者は2年目の研究においてナノ反応場の利用が極めて効果的であることを見出している.すなわち,金属などの機械的強度の高いナノ粒子を採り入れた疑似均一反応場に超音波などで撹拌することにより,単なるスターラー撹拌とは全く異なる撹拌効率が実現されるのである.これはナノ粒子がミクロな振動を起こすことで基質などの分子間でネットワークを形成することを抑制するためと考えられる.このようなナノ反応場の考え方をさらに進め,可溶性担体と併せた効率的な合成技術を確立することを目指す.
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