研究課題/領域番号 |
16H06200
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
杉本 亮 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (00533316)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 海底湧水 / 沿岸海域 / ラドン / ラジウム / 一次生産 / 栄養塩 / 陸海相互作用 / 比抵抗 |
研究実績の概要 |
本年度は、以下の3点に関する研究を実施した。 1)瀬戸内海の竹原市沿岸(広島大学実験所前)および対岸の無人島において、222Rnと224Raの24時間連続観測を実施した。222Rnの収支モデルから推定された実験所前のSGD量は、シーページメータによる推定値とほぼ一致した。一方224Raから推定されたSGD量は、シーページメータから推定された再循環性海水のSGD量と一致していた。これらの結果は、222Rnが正味のSGD量、224Raが再循環性分のみSGD量を評価するのに最適であることを示しているとともに、222Rnと224Ra由来のSGD量の差が、淡水性のSGD量とみなせることを意味している。一方、SGD量の少ない無人島では、222Rnから推定されたSGD量が、シーページメータから推定されたものよりも著しく大きくなった。SGD量が極端に少ない場所では、222Rnなどを用いてSGD量を評価すると、誤った推定結果を導く場合があることが示唆された。 2)気仙沼舞根湾奥部の河口干潟と塩性湿地において、222Rnおよび他のパラメータ(水温、塩分、水深、光量子量、クロロフィル、溶存酸素、二酸化炭素分圧)の24時間連続観測を大潮と小潮に実施した。その結果、二酸化炭素分圧は、光合成/呼吸に伴う日周変動を示していたが、大潮の最干潮時に生じた222Rn濃度の急上昇に伴い、非常に高い二酸化炭素分圧が観測された。このことは、地下水が二酸化炭素のソースとなっている可能性を示唆する。 3)グローバルレベルでの地下水による炭素フラックスを評価するために、東北から九州にいたる我が国の沿岸地下水のサンプリングを実施した。採取した試料は52サンプルであり、全アルカリ度、全炭酸濃度、溶存態有機炭素濃度、栄養塩濃度を測定した。これらのデータは、サザンクロス大学のグループが中心となって、現在とりまとめている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ラジウム同位体比(223Ra、224Ra、226Ra)を自前で分析するために、ラジウム遅延式同時計測装置(RaDeCC, SCI社製)を購入した。RaDeCC測定に必要となる232Thおよび227Acをマンガンファイバーに含有させたスタンダードは、金沢大学との共同研究を通じて、ウッズホール海洋研究所の地下水研究グループとの研究協力体制が新たに構築されたことで、米国から譲り受けることができた。これにより、研究代表者の研究室において、ラジウム同位体比の安定した分析環境を整備することができた。 豪国サザンクロス大学と協力している地下水によるカーボンフラックス評価のために、全アルカリ度を測定することができる電位差自動滴定装置(Ti-touch, Metrohm社製)を前倒し予算を用いて新たに導入した。これにより、当初予定していなかったが、炭素動態までを含めた海底湧水研究を幅広く展開できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
当研究室に完備済みであった海底湧水評価ツール(ラドン測定器、海底湧水量計、ピエゾメータなど)に加え、本研究経費を用いて船舶曳航型電気探査機器とラジウム遅延式同時計測装置を新たに導入できたため、海底湧水研究を進める上での支障はほぼ解消された。今後は、これらの手法を高度に組み合わせながら、海底湧水域の可視化、淡水性と再循環性海水を区別した海底湧水の定量化、低次生産過程への影響評価をさらに推進する予定である。
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