農業分野において将来予想される気候変動への対応には、農家による取組みと政策的支援の両面が必要である。この観点から我が国の既存研究では、第一に農業分野での気候変動対策の具体的指針と経済的メリットの解明、および第二に将来における台風や集中豪雨 等の増加が農業生産に及ぼす影響の経済評価、という課題が残されている。本研究では、これらの点の解明を通じ、我が国の農業分野における総合的な気候変動対策策定に向けた学術的根拠を提供することを目的としている。 平成29年度は、気候変動の経済的影響に関する研究を取りまとめた。具体的には、農業統計データ、地理情報データ、気象データとを組み合わせた農業生産に関する市町村別パネルデータを作成し、気象データ(気温および降水量)が単位面積当たりの農業所得に及ぼす影響を解析した。さらに、計量経済学的に推計されたパラメータと将来の気候変動シナリオを用いて、将来における気候変動が農業所得に及ぼす影響を推定した。本研究により、農家による適地適作(気象条件にあった品種や栽培技術の選択)の重要性が改めて明らかになったとともに、将来の気候変動に対応した試験研究や技術開発などの政策的支援に関する基礎的知見が得られたと考える。 以上の成果について、国際ワークショップ(2017年4月、中国・北京市)を開催し報告、および学会報告(2017年10月、中国・北京市)のうえ、学術論文としてとりまとめ学術雑誌に投稿した。 このほか、地球温暖化緩和策に関連して、貿易自由化が温室効果ガス排出に及ぼす影響に関する研究、木質バイオマス利用の経済、環境、社会的影響に関する研究を取りまとめ、それぞれ、学術雑誌に投稿し、掲載された。
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