研究課題/領域番号 |
16H06204
|
研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
常田 岳志 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主任研究員 (20585856)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | イネ / 高CO2 / 安定同位体 / メタン / 水田 |
研究実績の概要 |
本研究は安定同位体比を活用した新しい表現型解析手法を用いて、コメ収量の高CO2応答を高めながらメタン排出量の低減を実現するイネの形質・表現型を特定することを目的としている。H29年度は、前年度に引き続き茨城県つくばみらい市で大気CO2濃度増加実験を実施し、世界のイネコアコレクションおよびコシヒカリ・タカナリの染色体断片置換系統群(CSSLs)を栽培し、バイオマス・穂重の高CO2応答とメタン発生量の指標となる土壌中溶存メタン濃度の品種・系統間差を調査した。2カ年のCSSLs栽培試験の結果から、系統間のコメ収量の高CO2応答の違いは主に乾物生産の応答が関与していることが分かり、それに関与する染色体領域の候補が見つかった。安定同位体比を用いた形質評価の一つとして、高CO2応答の異なる品種の玄米サンプルの酸素安定同位体比の分析を開始した。これまでに品種やCO2条件によってδ18Oが明確に異なることが分かり、高CO2に対するイネの生理的な応答とその品種間差がδ18Oに反映される可能性が示された。メタン排出量やその指標となる溶存メタン濃度に関しても大きな品種・系統間差が確認され、特にCSSLsの結果らから低メタン性に関与する染色体領域の候補が見つかった。さらにδ13Cの分析からメタン排出量が品種によって異なるメカニズムを炭素基質の面から調査したところ、イネ根からの滲出物・根の枯死根に加え、土壌有機物由来のメタン発生に関しても品種間差があることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
茨城県つくばみらい市の高CO2実験を当初の予定通り2カ年にわたり滞りなく実施し、安定同位体比に基づく表現型解析を実施するためのサンプルを多数得ることができた。イネの安定同位体分析に必要な粉砕等の前処理に関しては、予想していたほどリソースが割けず当初の見込みよりやや遅れている。一方でメタンの分析は想定以上に進展し、メカニズム解明などが当初の期待以上に進んだ。以上から研究全体としては概ね順調に進展していると判断された。
|
今後の研究の推進方策 |
本課題では多数のサンプルの安定同位体比を分析する必要があり、そのハイスループット化が課題として浮かび上がってきた。メタンのd13Cに関してはすでにハイスループットラインが確立しており、滞りなく分析が進んでいる一方、イネ体の炭素・窒素・酸素の安定同位体比分析をハイスループット化するためにイネの粉砕プロトコルを改良が必要がある。また炭素と窒素に関しては、濃度と同位体比を同時に分析できるよう分析ラインを改良し、大幅なハイスループット化の実現を目指す。
|