本研究は安定同位体比を活用した新しい表現型解析手法を用いて、コメ収量の高CO2応答を高めながらメタン排出量の低減を実現するイネの形質・表現型を明らかにすることを目的とした。H30-31年度は、茨城県つくばみらい市で行った大気CO2濃度増加実験(FACE実験)で得られたイネサンプルの解析を進めた。現在の日本の基幹品種であるコシヒカリと比べ、タカナリは収量が高く、かつ高CO2による増収効果も大きいこと、またシンク容量がタカナリで大きいことがその主要な要因であることが多窒素条件での試験から指摘されている。今回、コシヒカリにタカナリの染色体断片を置換した系統群を低窒素条件で栽培したところ、シンク容量が高まった系統が複数確認されたが、その中には高CO2応答が高まらなかった系統も見られた。このことから、低窒素条件における高CO2応答の違いにはシンク容量以外の要因も関係することがわかった。なお世界的なヘリウム供給不足により、安定同位体比質量分析計を十分稼働することができなかったため、イネの安定同位体比と表現型との比較解析は今後も継続する予定である。 メタン排出量の品種間差に関する解析を同位体比を用いて進めた結果、低メタン品種では土壌有機物の分解に由来するメタンの排出量が少ないことが明らかになった。さらにFACE実験で溶存メタン濃度がコシヒカリより低かった品種・系統について、農研機構・農環研内の圃場において栽培試験を実施し、実際のメタン排出量と溶存メタン濃度等との関係を調査した。その結果、世界のイネコアコレクションの中から、コシヒカリと比べてメタン排出量が4割以上も低い品種が見出され、今後、低メタン品種を選抜・育成する上で重要な情報が得られた。
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