研究課題/領域番号 |
16H06205
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
喜久里 基 東北大学, 農学研究科, 准教授 (90613042)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 暑熱ストレス / 肉用鶏 / 筋タンパク質分解 / アルギニン / アラニン / 腸管バリア機能 |
研究実績の概要 |
H30年度は暑熱ニワトリの骨格筋タンパク質代謝変動をもたらし得る血中因子、エンドトキシン(リポポリサッカライド、LPS)に加え、および体内代謝を概観するためのタンパク質構成アミノ酸の量的変動を調べた。暑熱感作区および同感作時と同量の飼料を摂取させた制限給与区のニワトリにおける骨格筋(浅胸筋)、肝臓および血中のアミノ酸量を調べた結果、暑熱ニワトリでは上記の組織・臓器において、アルギニンおよびアラニンが摂取量低下非依存的にそれぞれ上昇および低下していることが認められた。また、骨格筋、肝臓および血中における暑熱時のアミノ酸変動は採取した組織・臓器間による違いが認められたものの、濃度が変化したアミノ酸は必須アミノ酸より非必須アミノ酸で比較的多かった。腸管のバリア機能破綻にともなう内腔からのLPS流入は筋タンパク質分解の亢進因子であることから、前者の機能をFITCデキストラン(3-5 kDa)飲水法で評価した結果、暑熱感作後期(14、21日目)に同物質の血中流入量が対照区に比べ有意に高いことが示された。さらに、同血液ではLPSおよび筋タンパク質亢進マーカーである3メチルヒスチジンの有意な増加も認められた。以上の結果をまとめると、ニワトリの暑熱感作後期における骨格筋タンパク質代謝の変動において消化管由来のLPS流入が重要な役割を担っていることが示唆され、またアルギニンおよびアラニンが何らかの役割を担い、その制御に関与している可能性が推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、暑熱鶏において骨格筋タンパク質代謝破綻をもたらす他臓器間代謝ネットワークを明らかにすることである。これまでの研究で明らかになった点は、①暑熱感作直後(0.5日後)の筋タンパク質分解亢進の直接的要因は同組織内において発生したミトコンドリア活性酸素の過剰産生にともなうタンパク質のユビキチン化(ユビキチンプロテアソームタンパク質分解反応のひとつ)であること、②コルチコステロンやLPS、炎症性サイトカインは①の反応に関係していないこと、また③暑熱感作後期では消化管バリア機能の低下にともなう血中へのLPS流入が筋タンパク質亢進を招いている可能性があること、である。これらの結果を紡ぎ合わせると、暑熱感作初期では体温上昇にともない発生した骨格筋組織のミトコンドリア活性酸素産生(酸化ストレス)がタンパク質分解を亢進させるが、暑熱後期ではこの反応に加え、腸管内腔からのLPS流入が筋タンパク質分解の亢進を加速させているとの仮説が立てられる。また、暑熱時のアミノ酸の代謝変動を考慮すると、特に暑熱後期ではLPSおよび病原体が体内に入った後、炎症反応や酸化ストレスが発生することでミトコンドリア活性酸素の増大や抗炎症反応が生じ、筋タンパク質分解の亢進およびアミノ酸の再配分が生じ、正常な増体に向けた骨格筋タンパク質代謝が営まれなくなった可能性が推察される。暑熱時に血中濃度が増加したアルギニンに着目すると、同アミノ酸は通常の代謝過程で一酸化窒素を発生し、血管拡張に加えマクロファージなどの貪食作用に関係する。後者の作用に着目して考察すると、暑熱時に体内に流入した病原体を除去するために同アミノ酸が筋タンパク質分解より得ている可能性が推察される。暑熱後期段階の筋タンパク質代謝破綻では腸管→骨格筋の経路が重要であることが見いだされたことから、研究は順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
暑熱時の筋タンパク質代謝破綻ネットワークの解明に向けて、H30年度までの研究で実証できなかった点および浮かび上がった新たな検証点は、腸管バリア機能破綻によるLPS流入が筋タンパク質分解に実質的に作用しているのか否か、アルギニン濃度の上昇は積極的に産生されたのかあるいは代謝されなかったが故に蓄積した結果なのか、アラニン濃度の低下は産生量が低下したのかあるいは代謝(消費)量が増加した結果なのか、の2点である。まず、前者について、腸管バリア機能の向上させる酪酸ナトリウムを用いて、これを給与した際の筋タンパク質分解度に加え、血中LPS濃度および主に肝臓における病原体(サルモネラ菌他)付着に対する抑制作用を調べる。後者のアルギニン・アラニンの量的変動の役割の解明にあたっても、酪酸ナトリウム給与試験時において、両アミノ酸の変動を分析することで、要不要の別が明らかにすることができる。さらに両アミノ酸の量的変動のみならずどの経路で必要とされているのかを同位体元素などを用いてトレースすることやメタボロミクス解析で概観することで暑熱時の役割が浮かび上がると考えられる。
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