研究課題
ウシの最も重要な繁殖障害のひとつである卵胞嚢腫の主な原因は、排卵を誘起するGnRHサージ発生中枢の機能不全であるとされるが、特に家畜におけるサージ発生中枢メカニズムはほとんど解明されていない。本研究は、①キスペプチンニューロンの活動を任意に操作可能な遺伝子組換えヤギを作出し、反芻家畜のGnRHサージ発生中枢を決定することを目的とする。さらに、②キスペプチンニューロン細胞株を樹立して、新たなGnRHサージ発生制御メカニズムを探索し、中枢による哺乳類の排卵制御機構の全容解明を目指す。以上の研究で得られた成果は卵胞嚢腫の発症機序を明らかにし、ウシの受胎率向上に資する新たな治療法の開発につながることが期待される。①平成28年度には、上述の遺伝子組換えヤギを作出するために必要なヤギ胎子線維芽細胞の遺伝子改変を行った。ゲノム編集技術TALENにより、ヤギ胎子線維芽細胞のキスペプチン遺伝子座にCreリコンビナーゼをノックインした。細胞クローニングを行い、目的通りに遺伝子が改変された細胞クローンを得られた。また、キスペプチンニューロンの活動を任意に操作可能にするために、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて遺伝子組換えヤギの脳内に遺伝子導入する予定であることから、実際に使用する予定のアデノ随伴ウイルスベクターをヤギ脳内に注入し、遺伝子の発現量と局在を確認する実験を行った。②ラットキスペプチンニューロン細胞株を樹立するため、各細胞クローンの発現遺伝子解析を行った。その結果、排卵中枢キスペプチンニューロンのマーカーであるキスペプチン遺伝子とエストロジェン受容体遺伝子を発現するクローンを複数特定した。
3: やや遅れている
①遺伝子改変ヤギの作出に向けた実験は、着実に進んでいるものの、当初に平成28年度中に開始することを目標としていた体細胞核移植までは至らなかった。アデノ随伴ウイルスベクターによる遺伝子導入では、導入遺伝子の十分な発現を観察することができず、実験プロトコルを改善する必要がある。②遺伝子発現パターンの解析結果から、排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株の候補を複数特定したが、エストロジェンの刺激によりキスペプチン遺伝子の発現量を有意に増加させる株(すなわち生体での排卵中枢キスペプチンニューロンと同様の反応を示す細胞株)の特定には至らなかった。
①得られた遺伝子改変ヤギ胎子線維芽細胞の核をヤギ卵子に移植して(体細胞核移植)、正常に発生した胚を代理母ヤギの子宮に移植し、目的の遺伝子組換えヤギを得る。体細胞核移植および胚移植は、実験用シバヤギを多数飼育する東大付属牧場で行う。アデノ随伴ウイルスベクターによる遺伝子導入法の条件検討を行い、導入遺伝子が十分に発現されるプロトコルを確立する。②ラット排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株の候補へのエストロジェン添加実験を引き続き行い、エストロジェンの刺激によりキスペプチン遺伝子の発現量が有意に増加する細胞株を特定する。また、ヤギ排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株を樹立するため、すでに得ている細胞クローンの遺伝子発現解析を進める。排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株を特定したら、化合物ライブラリーを入手し、排卵中枢キスペプチンニューロンの活動を制御する因子やキスペプチン遺伝子の転写を活性化する因子のスクリーニングを開始する。
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Journal of Reproduction and Development
巻: 62 ページ: 471-477
10.1262/jrd.2016-075