研究課題/領域番号 |
16H06206
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松田 二子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (10608855)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 畜産学 / 獣医学 / 応用動物 / 神経科学 / 細胞・組織 |
研究実績の概要 |
ウシの最も重要な繁殖障害のひとつである卵胞嚢腫の主な原因は、排卵を誘起するGnRHサージ発生中枢の機能不全であるとされるが、特に家畜におけるサージ発生中枢メカニズムはほとんど解明されていない。本研究は、①キスペプチンニューロンの活動を任意に操作可能な遺伝子組換えヤギを作出し、反芻家畜のGnRHサージ発生中枢を決定することを目的とする。さらに、②キスペプチンニューロン細胞株を樹立して、新たなGnRHサージ発生制御メカニズムを探索し、中枢による哺乳類の排卵制御機構の全容解明を目指す。以上の研究で得られた成果は卵胞嚢腫の発症機序を明らかにし、ウシの受胎率向上に資する新たな治療法の開発につながることが期待される。 ①平成29年度には、ゲノム編集技術TALENによりキスペプチン遺伝子座にCreリコンビナーゼをノックインしたヤギ胎子線維芽細胞のヤギ未受精卵への体細胞核移植を開始した。ヤギにおける過排卵処置、卵巣採取、卵巣からの卵母細胞の吸引、卵子の成熟培養の一連の技術を確立した。遺伝子相同組換えを行った培養ヤギ胎子線維芽細胞の細胞核のヤギ未受精卵への移植を試みたが、正常に発生する胚の作出には至っていない。 ②遺伝子発現パターンの解析結果から、ラット排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株の候補を複数特定したが、エストロジェンの刺激によりキスペプチン遺伝子の発現量を有意に増加させる株の特定には至らなかった。ヤギ排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株を樹立するため、すでに得ている細胞クローンの遺伝子発現解析を進めた。ヤギ排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株と合わせて家畜の排卵制御メカニズムの解析に使用できるヤギ排卵中枢(KNDy)ニューロン細胞株およびヤギGnRHニューロン細胞株についての報告を国際雑誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①遺伝子改変ヤギの作出に向けた実験は、着実に進んでいるものの、体細胞核移植により正常に発生する胚の作出には至らなかった。 ②ラット排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株の候補を複数特定したが、エストロジェンの刺激によりキスペプチン遺伝子の発現量を有意に増加させる株は見つからなかった。そのため、研究開始当初に予定していた「ラット排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株と化合物ライブラリーを用いた排卵中枢制御因子のスクリーニング」を開始できない状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
①得られた遺伝子改変ヤギ胎子線維芽細胞の核をヤギ卵子に移植して(体細胞核移植)、正常に発生した胚を代理母ヤギの子宮に移植し、目的の遺伝子組換えヤギを得る。 ②ヤギ排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株の候補へのエストロジェン添加実験を行い、エストロジェンの刺激によりキスペプチン遺伝子の発現量を有意に増加させる細胞株を特定する。ヤギ排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株を特定したら、排卵中枢キスペプチンニューロンの活動を制御する因子やキスペプチン遺伝子の転写を活性化する因子のin vitro解析を開始する。 ③共同研究者のトランスクリプトーム解析結果を検索し、ラットにおいて排卵中枢キスペプチンニューロンで発現するが卵胞発育中枢キスペプチンニューロンで発現しない受容体を、排卵中枢制御因子の候補として選び出す。この候補について、ラット視床下部における局在の確認と、生体ラットのLHサージに与える影響を検討し、実際に排卵中枢制御機能を持つ因子を特定する。生体ラットで排卵中枢を制御することが確認できた因子を、生体ヤギを用いた確認実験に使用する。
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