ウシの最も重要な繁殖障害のひとつである卵胞嚢腫の主な原因は、排卵を誘起するGnRHサージ発生中枢の機能不全であるとされるが、特に家畜におけるサージ発生中枢メカニズムはほとんど解明されていない。本研究は、反芻家畜のGnRHサージ発生中枢制御機構を解明することを目的とした。そのために、ヤギ由来のキスペプチンニューロン細胞株およびGnRHニューロン細胞株を樹立して、新たなGnRHサージ発生制御メカニズムを探索し、中枢による哺乳類の排卵制御機構を解明することを目指した。 当該年度は引き続きヤギ排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株の樹立を進めた。ヤギ排卵中枢の初代培養細胞を不死化して樹立した細胞クローンのうちキスペプチン遺伝子(KISS1)とエストロゲン受容体遺伝子(ESR1)を高発現するもの3つを排卵中枢キスペプチンニューロン細胞株候補とした。これらの候補株にエストロゲンを添加し、KISS1発現量の変化をreal time RT-PCRにて解析した結果、エストロゲンに反応してKISS1量が有意に増加する細胞株(GP64)を1つ見出した。GP64細胞株はキスペプチンとエストロゲン受容体をペプチド/タンパク質レベルで発現することを確認した。またカルシウムイメージング解析を行った結果、GP64が神経分泌機能を持つことが示唆された。同時にヤギGnRHニューロン細胞株の樹立も進め、GnRHを発現・分泌し、キスペプチンに反応して活性化する細胞株(GP11、GP31)を2つ見出した。 以上の研究で得られた成果は中枢性繁殖障害の発症機序を明らかにし、ウシの受胎率向上に資する新たな治療法の開発につながることが期待される。
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