研究課題
経済損失が年間800億円である乳牛の乳房炎は、家畜の三大疾病の一つである。乳房炎に対するワクチン開発は難航しており、その主たる要因は、乳腺での免疫機構の多くが未だ謎であることである。申請者はこれまで、粘膜組織での感染防御に重要であるIgAが乳腺で産生されるためには、乳腺でCCL28(細胞遊走活性因子)が発現すること、またその受容体であるCCR10を発現するIgA産生細胞が乳腺に遊走することが必須であることを明らかにしてきた。本研究では、このCCL28とCCR10に着目し、(1)乳腺側「呼び寄せる側」と、(2)IgA産生細胞側「呼ばれる側」の双方向研究を展開することで、乳腺でのIgA産生を制御誘導する分子メカニズムを完全解明することを目的としている。平成28年度は、特に課題1では、乳腺でのCCL28発現に関わる分子メカニズムを明らかにすべく、乳腺の発達およびその後の泌乳に関与する内分泌ホルモンが与える、乳腺でのCCL28発現への影響を明らかにするための研究を実施すべく、乳腺の発達に必要不可欠である卵巣の機能に着目した研究を実施した。出産直後に卵巣を摘出したマウスと通常マウスにおける、出産2週間目の乳腺でのCCL28発現および乳汁中IgA産生を精査した結果、両群間に有意な差は認められなかった。このことは、卵巣由来の内分泌ホルモン以外が、乳腺でのIgA産生に深く関わっている可能性を示唆するものであった。課題2では、免疫機能を欠くSCIDマウスに免疫細胞を移入し、その後の乳腺へ遊走するIgA産生細胞の動態を評価することで、どの組織由来の細胞が乳腺でのIgA産生に関わるかを明らかにするためのモデル実験系を構築した。野生型マウスの骨髄(ポジティブコントロール)由来細胞をSCIDマウスに移入することで、IgA産生細胞の乳腺への遊走が実証されたことから、実験モデルを確立することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
当初からの予定である、(1)乳腺側「呼び寄せる側」と、(2)IgA産生細胞側「呼ばれる側」の双方向研究を予定通り実施できているため。
課題1では、卵巣由来の雌性ホルモンは、乳腺でのIgA産生にあまり関与していないことが示されたことから、平成29年度は、乳腺の発達/泌乳に関わる他の内分泌ホルモンが、乳腺でのIgA産生に与える影響を精査することで、乳腺側「呼び寄せる側」の役割を完全解明する。また、in vivo試験に加え、in vitroでの試験も本格的に実施する。具体的には、培養乳腺上皮細胞に、CCL28発現に関わると推測される内分泌ホルモンを添加することで、その影響を評価する。また、CCL28遺伝子のプロモーター領域に結合する転写因子を特定するためのChiPアッセイも合わせて実施することで、分子生物学的観点を取り入れた試験にも積極的に挑戦する。課題2では、SCIDマウスへの野生型マウス由来免疫細胞の移入試験系が確立できたことから、今後は、マウスの各種組織より単離した免疫細胞を用いた移入試験を実施する。これまでの研究から、特に、大腸の二次リンパ組織由来の免疫細胞の関与が疑われていることから、特に、野生型マウスの大腸の二次リンパ組織より単離した免疫細胞をSCIDマウスへ移入するための試験を最優先で実施する。これらの試験を実施することで、研究2年目にあたる平成29年度も順調に課題を展開することが可能になる。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 5件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 1件)
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