研究課題/領域番号 |
16H06208
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前田 真吾 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (80755546)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | PAR-2 / 肥満細胞 / 血管新生 / トリプターゼ |
研究実績の概要 |
肥満細胞は種々の生理活性物質を産生し、アレルギーの発症に関わる免疫細胞である。近年、肥満細胞が様々な腫瘍の組織内に浸潤し、腫瘍の進行に関与することがわかってきたが、肥満細胞が最も多く産生する蛋白質であるトリプターゼに着目した研究はほとんどなされていない。トリプターゼは蛋白分解酵素の一種であり、肥満細胞の脱顆粒による組織傷害に重要とされているが、Protease-activated receptor-2 (PAR-2)と呼ばれる受容体のリガンドとしても機能することが知られている。そこで本研究は、肥満細胞トリプターゼ・PAR-2シグナルが腫瘍組織における血管新生およびその増悪に与える影響を検討することを目的とした。
犬の乳腺癌組織におけるPAR-2発現を免疫組織化学法により評価し、その発現強度と症例の予後との相関を検討した。その結果、腫瘍細胞がPAR-2を高発現している症例はPAR-2発現が低い症例と比べて有意に全生存期間が短いことがわかった。また、PAR-2高発現症例は、肺やリンパ節に転移を起こしやすいことが明らかとなった。がさらに乳腺癌細胞株を用いてPAR-2アゴニストによりPAR-2を活性化すると、細胞増殖および細胞遊走が有意に増加した。以上の結果より、腫瘍細胞に発現するPAR-2の活性化は、細胞増殖や遊走を促進し、転移や予後の悪化を引き起こす可能性が示唆された。
続いてがん微小環境におけるPAR-2の役割を評価するために、PAR-2を発現しないB16メラノーマ細胞をマウスの皮下に移植し、担癌モデルを作製した。摘出した腫瘍の免疫組織学的解析により、腫瘍組織の血管内皮細胞にPAR-2が発現していることを確認した。この担癌モデルにPAR-2アンタゴニストを投与すると、腫瘍組織における血管新生が阻害され、腫瘍の増殖を抑制することがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腫瘍細胞および癌微小環境(血管)のどちらにおいてもPAR-2が重要であることを明らかにできた。しかし、腫瘍組織におけるPAR-2のリガンドが肥満細胞のトリプターゼなのかその他の蛋白分解酵素なのかは詳細に検討できていないため、次年度の課題として残っている。
|
今後の研究の推進方策 |
腫瘍組織におけるPAR-2のリガンドが肥満細胞のトリプターゼなのかその他の蛋白分解酵素なのかは詳細に検討できていないため、各種阻害剤やノックアウトマウス、骨髄移植マウスを用いて検討する予定である。また、PAR-2の下流のシグナル伝達についても、細胞株を用いたIn vitroの実験で詳細に検討する。さらに、犬の腫瘍症例を用いた臨床試験についても実施する予定である。
|