研究実績の概要 |
植物バイオマスは光合成によって再生産可能なカーボンニュートラルの天然資源として注目されている。植物の細胞壁は芳香族高分子であるリグニンと、多糖であるセルロース、ヘミセルロースが共存している。リグニンはセルロースに次いで豊富に存在する有機資源であり、植物細胞壁を構成する主要成分である。多糖とリグニンの分離は紙パルプの生産をはじめ、植物バイオマスから化成品やバイオ燃料を生産する上で最大の障壁である。しかし、リグニンと多糖間の結合について、これまでは化学分析法などの間接的な分析に留まっており明らかではない。本研究課題ではリグノセルロースの「結び目構造」に着目し、その強固な三次元ネットワークを「ほどく」反応系を構築しバイオマス変換におけるブレークスルーを目指す。 本研究では、木材中からリグニン・多糖結合体を分離し、構造解析を行った。木材細胞壁中においてリグニンはヘミセルロース多糖を共存、複合体を形成しており、Lignin-Carbohydrate Compelex(LCC)と呼ばれている。針葉樹バイオマスの混合試料からリグニン-多糖間をつなぐ結び目構造部を濃縮し、多次元NMR法を用いて、150年来の課題であった植物細胞壁内部の多糖とリグニン間の結合構造を周辺構造を含めて初めて解明した(Nishimura, H. et al., Scientific Reports 8:6538. 2018)。さらに広葉樹材についても試料調製、構造解析を実施した。 リグノセルロースの多様な結び目構造を解き明かし、分子構造に基づいてバイオマス変換法を設計することが、植物基礎科学の発展と、植物資源を活かしたサステイナブル社会の実現につながると考えている。
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