研究課題
本研究では細胞内で複数のゲノムDNA配列を可視化し染色体凝縮時のDNAの時空間的挙動を明らかにし、染色体凝縮メカニズムの解明を目指している。本年度は、DNA可視化に必要なベクター構築、およびヒト培養細胞(HeLa細胞)へのトランスフェクションを行なうことで、標的配列を実際に細胞内で検出した。本研究では、標的DNAを検出するためにゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9を応用し、標的DNAにgRNAを介してヌクレアーゼ活性が欠損したdCas9を結合させる。ここで、gRNAの3'末端側に特定のRNA結合蛋白質が認識するために必要なモチーフ(PP7)を付加し、PP7に結合するPPC蛋白質にGFPを融合することで、gRNAを介して標的DNAを蛍光で検出することが可能になる。このため、標的DNAを検出するためには、1)dCas9発現ベクター、2)gRNA-PP7発現ベクター、3)PPC-GFP発現ベクターの3種類が必要となるため、これらのベクターを構築した。また、sgRNAの標的配列としてはテロメア配列(TTAGGG)を選択した。これらの構築したベクターをHeLa細胞に導入することで、核内にテロメア様の輝点を多数検出することに成功した。また、細胞内でカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの二価陽イオンがDNAの凝縮を制御する因子である事を示すことにも成功しており、今後本システムを用いて二価陽イオンが染色体凝縮時のDNAの挙動に与える影響の詳細が明らかになる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
本年度計画していた、生細胞内DNAイメージングを行うために必要な基本的なベクターを構築することができ、実際にこれらのベクターを用いて標的配列を検出できていると思われるポジティブな結果が得られている。また、分裂期におけるDNAの挙動に細胞内のカルシウムイオンやマグネシウムイオンが大きく関わることを示すことができ、本成果を論文発表ならびにプレスリリースした。
作製した標的DNAを可視化するためのベクターを用いて、生きた細胞の分裂期の染色体において、検出されているシグナルがテロメアであることをFISHにより確認する。標的DNAの可視化が成功していた場合、さらに別のRNA結合モチーフ(BoxB)とRNA結合蛋白質(N22)の組み合わせを用いて、テロメアと同時に別の標的DNA配列、例えばセントロメアを検出することを試みる。また、STORMやStructured Illumination Microscopy (SIM)といった超解像度顕微鏡法を用いることで、in vovoでの詳細なクロマチン構造の検出を試みる他、テロメアやセントロメア以外のDNA配列、特に染色体構造に重要と考えられるコンデンシンなどの結合配列を検出する。さらに、がん細胞であるHeLa細胞のゲノムDNAを可視化し、正常細胞と比較することで、がん細胞特有のクロマチン構造が検出可能かどうかを調べる。HeLa細胞では染色体の異数化や転座が多く検出されることから、染色体凝縮時に正常細胞とは異なる挙動を示すDNA領域を検出しやすいと考えている。超解像度顕微鏡による生細胞の観察が難しい場合には、固定細胞やFRETの利用を試みる。
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: 38281
10.1038/srep38281
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20161202_1