研究課題
本研究課題では、クロロアルケン型ジペプチドイソスターの創薬技術を基盤として、ペプチドの易水解性や代謝、凝集に起因する問題を解決するペプチド結合等価体の研究開発を行う。平成29年度は、以下に示す二つの研究課題を計画に沿って実施した。①加水分解耐性型ヒト2型NMU受容体選択的アゴニストの創製ニューロメジンU (NMU)は摂食抑制作用やエネルギー代謝亢進作用を示す神経ペプチドであり、構造展開によって見出されたヘキサペプチド (CyP-LFRPRN-NH2) は、内因性ヒトNMUと同等なアゴニスト活性を有しているものの、Arg-Asnペプチド結合が容易に加水分解され、アゴニスト活性が消失する。そこで、Arg-Asn配列に相当するクロロアルケン型ペプチド結合等価体の合成研究を行い、二つのアミノ酸側鎖に相当するアルキル基の立体選択的構築ならびにトランス-アミド配座に相当するZ型クロロアルケン骨格の構築に成功した。なお、本年度の研究遂行を通じて明らかになった問題として、基質が高度に官能基化されているために、N-Bus基からN-Fmoc基への保護基の変換が当初の予想に比べ低収率であることが明らかとなってきた。そこで、現在収率向上を目指した反応条件や新規合成経路について検討を加えている。② 種々のアルケン骨格の代謝安定性体内動態に優れたアルケン骨格を特定するために、モデル基質として1,2-ジヒドロナフタレンを用い、種々のハロゲン原子(F, Cl, Br)を導入した1,2-ジヒドロナフタレン誘導体が酸化される電位をサイクリックボルタンメトリーによって定量化し、オレフィン上の置換基導入に伴う酸化電位の変化を精査した。その結果、電子求引性置換基を導入することで酸化耐性が付与されることが明らかになり、さらに塩素原子で置換した誘導体が最も高い酸化耐性を有することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
Arg-Asn配列に相当するクロロアルケン型ペプチド結合等価体の合成を行い、二つのアミノ酸側鎖に相当するアルキル基の立体選択的構築ならびにトランス-アミド配座に相当するZ型クロロアルケン骨格の構築に成功した。本合成において、当初予定していた1,4-遠隔不斉誘起型アリル位アルキル化反応を鍵反応とする合成経路についても検討したが、マルチグラムスケールでの合成は困難であることが明らかとなり、合成経路を大幅に変更したものの目的とするArg-Asn型クロロアルケン型ペプチド結合等価体の基本骨格を構築している。また、種々のアルケン型イソスターの代謝安定性や代謝機序を明らかにし、体内動態に優れたアルケン骨格を探索し、クロロアルケン骨格が酸化耐性を有することを明らかにした。これらの点において研究はほぼ順調に進展していると判断している。
新規ペプチド性医薬品開発の加速化するために、ペプチド結合をクロロアルケンで置換したクロロアルケン型ジペプチイソスターの機能評価については一応の成功を納めていると判断している。しかしながら、最終工程における官能基変換の反応効率の向上や、実際の生理活性ペプチドでの実用性を明らかにすることが必要である。そこで、今後の検討課題として次の点を推進する予定である。1. クロロアルケン型ペプチド結合等価体の新規合成法の開発2. 生理活性ペプチドにおけるクロロアルケン型ペプチド結合等価体の有用性の検証3. クロロアルケン型ペプチド結合等価体の水素結合能の評価これらを通じて、クロロアルケン型ペプチドの有用性、実用性、汎用性を明らかにすることで、真に実用的なペプチド結合等価体の開発を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.ipc.shizuoka.ac.jp/~ttnarum/top.html