研究課題
ヒトの血液脳関門の薬物透過機構を解明することは、中枢疾患治療における長年の重要課題である。脳への薬物の送達を考える上で、血液から脳への取り込み方向および脳から血液への排出方向の輸送機構を解明することが重要である。そこで、本研究では、最新の超網羅的プロテオミクス技術を用いて、血液脳関門のそれぞれの方向の物質輸送に寄与するトランスポーター群を新規に同定することを目的とした。これを達成するため、先ず平成28年度(初年度)では、膜蛋白質を中心に複数のタンパク質の発現量を一斉かつ高感度に測定できるSWATH定量系を構築することを目的とした。ブタの脳血管、肝臓、腎臓および小腸の細胞膜画分を調製し、それらをトリプシン消化し、等電点電気泳動装置を用いて12分画した。PBI社製の超高圧抽出システムバロサイクラーを購入し、pressure cycling技術を用いて、タンパク質を効果的に可溶化・変性およびトリプシン消化する処理方法を導入した。各組織試料について、12分画されたペプチド試料をLC-MS/MS(TripleTOF5600)のdata dependent acquisition(ショットガン)モードで測定した結果、約1万2千種類のタンパク質のペプチドのLC保持時間、MS/MSスペクトルおよびアミノ酸配列・タンパク質名の情報を収載したSWATH assay libraryを構築できた。ブタ組織のSWATH測定を行い、このlibraryを用いて解析した結果、約8千タンパク質も定量でき、予定していたSWATH定量系を構築することに成功した。この結果は、ショットガン測定などによる従来のプロテオミクス技術(定量タンパク数:1~2千タンパク質)に比べて、網羅性の点で飛躍的な進歩である。また、脳機能に重要なドコサヘキサエン酸(DHA)の脳への供給輸送機構として、SLC27A1を同定した。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた通りに、トランスポーター探索のための網羅的なSWATH定量系を構築することができたため。
平成28年度にトランスポーターを網羅的に探索するための網羅的プロテオミクス手法「SWATH法」の解析系を構築することに成功したため、翌年度は、この技術と脳血管試料を用いて、血液脳関門の物質輸送に関与するであろうトランスポーターの候補を実際に探索する予定である。
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