研究課題/領域番号 |
16H06229
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
後藤 義幸 千葉大学, 真菌医学研究センター, 准教授 (10755523)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / フコース / Fut2 / 上皮細胞 / 感染 |
研究実績の概要 |
本研究ではSalmonella typhimurium感染に対する腸管上皮細胞が発現するalpha1, 2-フコースの感染防御効果を検証することを目的としている。平成29年度は、alpha1, 2-フコースによる腸内細菌を介した感染防御効果について検討するため、Fut2欠損マウスの腸管各部位における腸内細菌叢の解析を行った。その結果、野生型マウスと比較してFut2欠損マウスでは腸内細菌叢が変化しており、特にLactobacillusの割合および数量が減少していることを見出した。さらに、これまでに嫌気培養装置を用いてLactobacillusを含む様々な腸内細菌を分離・同定している。また、in vitroにおいてフコシル化上皮細胞とS. typhimuriumの共培養系を確立するため、腸管上皮細胞株にFut2遺伝子を発現させることでalpha1, 2-フコースを恒常的に発現した腸管上皮細胞株を樹立した。これまでに、樹立した細胞株は恒常的にalpha1, 2-フコースを発現していることを確認するとともに、発現量の異なる細胞株を得ている。一方、Th17細胞と3型自然リンパ球(Group 3 innate lymphoid cells, ILC3)におけるIL-22の発現機構について解析を行ったところ、Th17細胞と比較してILC3ではIL-22が恒常的に極めて高く発現しており、抗生物質による処理を行うとその発現が大きく減弱することを見出した。この結果から、腸管ではILC3が主なIL-22の産生源であり、その発現は腸内細菌に依存的であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腸管上皮細胞のalpha1, 2-フコースが腸内細菌を介してS. typhimuriumの感染を防御する可能性を検証するため、Fut2欠損マウスにおける腸内細菌叢について詳細な解析を試みた。これまでに野生型およびFut2欠損マウスにおける腸内細菌叢を、次世代シークエンサーならびに定量的PCR法を用いて解析した。その結果、Fut2欠損マウスの腸管各部位においてLactobacillusの割合ならびに数量が減少していることを見出している。また嫌気培養装置を用い、これまでにLactobacillusを含む腸内細菌を様々な培地を用いて分離・同定した。 一方、腸管上皮細胞のalpha1, 2-フコースがS. typhimuriumの感染に対し、直接的な防御効果を示す可能性を検証するため、in vitroにおいて腸管上皮細胞株であるMODE-KにFut2遺伝子を発現させ、alpha1, 2-フコース発現MODE-Kを作製した。これまでにフローサイトメトリーを用いて、細胞表面においてalpha1, 2-フコースの発現パターンが異なる株を確立している。 また、上皮細胞のalpha1, 2-フコースを誘導するサイトカインの一つとしてIL-22が知られているが、Th17および3型自然リンパ球(Group 3 innate lymphoid cells : ILC3)のそれぞれから産生されることが知られている。これまでにTh17およびILC3におけるIL-22の発現量を比較解析したところ、小腸ではIL-22の発現はTh17細胞と比較してILC3において恒常的に極めて高く、抗生物質処理を行うとその発現が極めて減弱することを見出した。この結果から、IL-22は主に腸内細菌依存的にILC3から産生されていることが明らかとなった。以上の結果から、研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度までに、Fut2欠損マウスにおいて腸管各部位におけるLactobacillusの割合および数量が低下していることを見出している。また、嫌気培養装置を用いてLactobacillusをはじめとする腸内細菌の分離に成功している。今後は、これら腸内細菌を用いてノトバイオートマウスを作成し、S. typhimuriumを感染させることで、感染に対して抵抗性を付与する腸内細菌を同定する。一方、腸管上皮細胞にalpha1, 2-フコース発現を誘導するヒト由来細菌を同定するため、候補となる腸内細菌を無菌マウスに投与し、alpha1, 2-フコースを誘導しかつS. typhimuriumの感染を防御する細菌の同定を行う。 またH29年度までに樹立したalpha1, 2-フコース発現腸管上皮細胞株を用いて、in vitroにおいてS. typhimuriumの感染に対する防御機構について検証する。 IL-22は腸管上皮細胞にalpha1, 2-フコースを誘導することが知られているが、3型自然リンパ球(Group 3 innate lymphoid cells: ILC3)とTh17細胞によるIL-22の産生機構について検討を進める。同定されたalpha1, 2-フコースを誘導する腸内細菌がIL-22を誘導する可能性について、ノトバイオートマウスを用いて検討する。また、これまで得られてきたS. typhiumuriumに対する腸管上皮細胞のalpha1, 2-フコースの役割を基に腸管に感染する他の病原性微生物に対する機能についても解析を進め、腸管感染症に対する腸管上皮細胞の糖鎖修飾の重要性について理解を深める。
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