研究課題
本研究では、リポ蛋白上に存在するリゾリン脂質に注目し、リゾリン脂質の作用・代謝が、リポ蛋白の未解明な作用、および疾患との疫学的な関係に関与している可能性を考え、リポ蛋白研究とリゾリン脂質研究の2つの研究分野を統合することにより、リゾリン脂質研究の臨床応用、リポ蛋白学の更なる発展を、特に病態診断医学の分野で目指すものである。平成28年度までには、(1)ヒト血漿からリポ蛋白を分離し、検討したところ、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)をはじめ、多くのリゾリン脂質はLDLよりもHDL上の含有量が多かったが、リゾホスファチジン酸(LPA)は、HDLよりもLDL上に多く存在することが判明した。また、LDLの酸化によりLPIが特に増加すること、LDLの糖化により、急性冠症候群で増加する調査不飽和型のLPAが増加することなどを発見した。(2)マウス肝臓に様々なリポ蛋白代謝に関与する蛋白質を過剰発現させた検討により、脂質異常症治療薬であるスタチンの標的蛋白であるLDL受容体過剰発現群では、S1P、LPIは減少していたが、LPAをはじめ、他のグリセロリゾリン脂質は変動がなかった。一方、脂質異常症治療薬であるエゼチミブの標的蛋白であるNPC1L1過剰発現群では、S1Pおよび特に長鎖不飽和型のLPE、リゾホスファチジルグリセロール(LPG)、LPIが増加していた。(3)スフィンゴシン1-リン酸(S1P)のHDL上の輸送体であるアポ蛋白Mと結合したS1Pは、アルブミンと結合したS1Pと比べて、PAI-1の発現誘導が弱いこと、メサンギウム細胞増殖抑制作用があること、血管内皮細胞のeNOS活性化作用が強いことを発見した。(4)平成28年度にはApoMが冠動脈疾患既往患者で低下していること、慢性腎臓病で低下していることを発見した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の基盤となる、リポ蛋白中およびリポ蛋白の修飾によるリゾリン脂質の特異的な変動について、研究実績の概要に記載の通り発見することができているため。
今後、研究実績の概要に記載した知見を発展、さらに解明するため、以下の研究を行う予定である。(1)リゾリン脂質の輸送体、および代謝調節因子である可能性がある蛋白質を探索するため、リゾリン脂質が増えたリポ蛋白分画、修飾されたリポ蛋白について質量分析計を用いてリピドミクス解析およびプロテオミクス解析などを行い、候補となる蛋白・脂質をスクリーニングする。(2)特に顕著な変化がみられたNPC1L1がリゾリン脂質代謝に影響を与える機序の解明を動物実験、細胞実験にて行うとともに、未だ検討していないリポ蛋白代謝関連蛋白質をクローニングして、リゾリン脂質代謝の修飾について検討する。(3)現在までの発見の機序の解明を目指すとともに、腎尿細管細胞、血液腫瘍細胞、ヒトから分離した血小板、血球など様々な細胞を対象としてS1Pの輸送体の違いによる生物学的活性の相違について検討する。(4)予後のわかっている冠動脈疾患患者の検体中のApoMを測定したり、ApoMを測定した慢性腎臓病患者の予後を調べることにより、ApoMの臓器予後マーカーとしての有用性を検討する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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