研究課題
本研究では、リゾリン脂質の作用・代謝が、リポ蛋白の未解明な作用・疾患との疫学的な関連に関与しているという仮定をもとに、リポ蛋白研究とリゾリン脂質研究の2つの研究背景を統合することにより、リゾリン脂質研究の臨床応用、リポ蛋白学の更なる発展を、特に病態診断医学の分野にて目指すものである。平成29年度までには、以下の研究成果を得ている。(1)リゾホスファチジン酸(LPA)がHDLよりもLDLに偏って存在すること、LDLの酸化によりリゾホスファチジルイノシトールが特に増加すること、LDLの糖化により、急性冠症候群で増加する長鎖不飽和型のLPAが増加すること、また、特に、リポ蛋白の酸化・糖化によりリゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)が著明に低下することなどを発見した。また、細胞実験にて、このLPEには強力な抗炎症作用がある可能性を発見した。(2)マウス肝臓に様々なリポ蛋白代謝に関与する蛋白質を過剰発現させた検討により、特にNPC1L1、CETP、アポ蛋白D(ApoD)、CRPがスフィンゴシン1-リン酸(S1P)をはじめとするリゾリン脂質代謝に大きな影響を与えることを発見した。(3)S1PのHDL上の輸送体であるアポ蛋白Mと結合したS1Pは、アルブミンと結合したS1Pと比べて、インスリン分泌促進能が強いこと、PAI-1の発現誘導が弱いこと、メサンギウム細胞増殖抑制作用があること、腎尿細管細胞に対して抗線維化作用があること、血管内皮細胞のeNOS活性化作用が強いこと、腫瘍増殖抑制作用があること、細胞内代謝に対する影響が異なることを発見した。(4)ApoMが冠動脈疾患既往患者で低下していること、慢性腎臓病で低下していること、インスリン抵抗性患者においてApoMが低下することを発見した。また、ヒト検体においてもCRPがLPAと相関があることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の基盤となるリポ蛋白代謝とリゾリン脂質の関連について、研究実績の概要の様に研究が進んでいるため。特にアポ蛋白Mとスフィンゴシン1-リン酸によるHDLの多面的効果の機序解明に関しては、ApoM欠損マウスの作成に成功し、今後様々な成果が期待されている。
今後、研究実績に記載した項目を進展させるため、以下のような研究を行う予定である。(1)ヒト疾患(特に糖尿病)におけるリポ蛋白中LPE、前駆体であるホスファチジルエタノールアミンの変動について検討するとともに、本発見の臨床的な意義を明らかにするためLPEの生物学的活性についても検討していく。(2)NPC1L1、CETP、ApoD、CRPがリゾリン脂質代謝に影響を与える機序の解明を引き続き動物実験、細胞実験により行うとともに、現在臨床で用いられているNPC1L1の阻害剤であるエゼチミブがリゾリン脂質代謝に与える影響について検討する。(3)作成したApoMノックアウトマウスを用いて各疾患の病態生理に対するApoM-S1Pの関与について検討する。また、平成29年度までにリゾリン脂質の運搬に関与することが想定されたApoD, CRPに関しても、リゾリン脂質の生物学的作用の修飾について検討する。(4)予後のわかっている冠動脈疾患患者の検体中のApoMを測定したり、ApoMを測定した慢性腎臓病患者の予後を調べたりすることにより、ApoMの臓器予後マーカーとしての有用性を検討する。また、他のリゾリン脂質に関しては、基礎研究よりCRP、ApoDが代替バイオマーカーである可能性が示唆された。引き続きヒト検体を用いてこれらがリゾリン脂質の代替バイオマーカーである可能性について検討する。
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