研究課題
当研究は法医解剖前のご遺体に対し死後MRI検査を行い、解剖所見と比較検討し、死後CTだけでは究明できない死因を死後MRIによって究明できるか否かを検討することを目標としている。平成28年度は年間11体の死後MRIを撮影した。その結果、死後CTでは検出しがたい頚椎・頚髄損傷、びまん性軸索損傷、陳旧性心筋梗塞などが、当初の想定通り死後MRIによって評価可能であることが実証できた。またこれらに適切な撮影シークエンスとして、従来報告されてきたスピンエコー法だけではなく、グラディエントエコー法による撮影が有用であることが判明した。さらに当初想定していなかったが、死後MRIによって肺動脈脂肪塞栓症の一部が検討できる可能性や、低体温症における心臓血の左右色調差がMRIの信号差として判定しうる可能性が示され、本研究の意義を強化することできた。また本年度は研究目的を補完する複数の追加検討をスタートさせることができた。例えば、死体撮影時にこれまで直腸温のモニタリングのみを行ってきたが、加えて体表温度を測定するようにした。体表温度は深部体温に比べてMRI撮影時の温度変化が強く、より正確かつ包括的に温度とMRI信号の変化の関係が検討できることとなった。また研究協力病院においてMRIを利用させていただくことが、倫理審査などを経て可能となったため、ホルマリン固定後の脳MRI検査や、血液/血栓のMRI検査を行い、これらex vivoのMRI検査が死因究明に有用であるかどうかについても検討を進めることができるようになった。以上をまとめると、本年度は当初の計画以上に研究を進めることができ、死後MRIは死後CTに比して死因究明に有用であるという結果がある程度得られた。さらに、それを補完する複数の新しい検討を進める土台が形成された。次年度以降もさらに症例数を集め、検討を進めていく予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度は既に予備的実験によって確立した死後MRI撮影プロトコルを用い、対象事例11事例を撮影した。既に研究実績の概要の項目で説明した頚椎・頚髄損傷、びまん性軸索損傷、陳旧性心筋梗塞などが含まれていた。これらの所見は死後CTでは指摘しがたかく、死後MRIでは比較的容易に指摘できた。これらの解析を通じて、死後MRIが死後CTで指摘できない病変を指摘でき、死因究明に資するであろうという検討が当初の予定通りある程度証明できた。さらに、探索的な検討の結果として、撮影シークエンスの最適化(グラディエントエコー法がスピンエコー法に対して有用である)可能性や、死後MRIによる脂肪塞栓症の指摘可能性、低体温症における心臓血左右差の指摘可能性など、新たな課題を多数見出すことができた。さらに新たにMRI撮影中の体表温度のモニタリング、ex vivoのMRI検査を同時並行的に進め、研究の幅を広げることもできた。このように当研究は当初計画が予定通りに進むだけでなく、本研究主目的に則した範囲で新たな発見があり、また本研究主目的を補完する新たな検討研究も開始することができた。自己評価としては、実際の計画以上に進捗していると考えている。
上述の通り、本研究は当初の予定以上の進捗が得られている。今後も当初の計画通り、事例数を集め、成果をより確定的なものにしていくのが今後の課題である。平成28年度の検討の結果、新たに改善、改良されたMRIプロトコル(例えば各種グラディエントエコー法の撮影プロトコルの強化、脂肪抑制シークエンスの追加、T1値、T2値の計測プロトコルの追加、温度測定のための一定的プロトコルの追加などが平成28年度なされた)を継続的に使用し、必要に応じて修正を加えながら対象事例を蓄積していく。また本研究に対する協力病院を平成28年度に見出すことができたので、当該病院において倫理審査の許容する範囲内で、固定後臓器MRI撮影や、血液サンプルの撮影を行なっていき、より包括的な死後MRIの意義の理解を目指す。適宜症例数が集まった時点で、各検討課題について、知見をまとめ、学会発表や論文報告を行なっていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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