研究課題
当研究は法医解剖前のご遺体に対し死後核磁気共鳴画像(MRI)検査を行い、解剖所見と比較検討し、死後コンピュータ断層撮影(CT)だけでは究明できない、頚髄損傷などの死因を死後MRIによって究明できるか否かを検討することを目標としている。平成29年度は11体の死後MRIを撮影できた。平成28年度と同様、死後CTでは検出しがたい、頚椎・頚髄損傷や、びまん性軸索損傷の事例(ポジティブコントロール)が認められ、またこれらに対して、損傷がない場合のMRI(ネガティブコントロール)事例も蓄積されたことから、死後MRIの有用性を示すデータをさらに蓄積することができた。また、本年度からはあらたに、死後CTでは捉えることが困難な陳旧性脳血管障害(多発微小出血)、頸部圧迫における扁桃腺うっ血像、下垂体病変、脳梗塞、肝内胆管拡張など死因にかかわりうる病変が死後MRIでは評価可能になることを示す知見も得られた。一方で、大動脈解離や、椎骨動脈解離などの血管内病変が、血管が虚脱することによって、死後CTと同様、MRIでも評価困難な場合があることも明らかとなった。研究協力病院における調査では、平成28年度に引き続きホルマリン固定後脳や血液などの検査を行っている。ホルマリン固定後脳のMRIでは、死体内のMRI信号とは変化するものの、コントラストが保たれており、そのため、本研究の主たる目的である解剖前の死後脳MRIを評価する指標になりうることも判明してきた。以上をまとめると、本年度は昨年度の研究を継続して行い、昨年度の実績を補完させるデータが集められたとともに、新たな課題が理解されたという結果であった。今年度以降は、それらに新しい課題に対する検討を加え、さらに症例を重ねて評価していく予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
平成29年度は、平成28年度に既に確認されていた死後MRIの有用性を補完させるべく、撮影した11体のご遺体に対して、平成28年度からさらに追加された様々なシークエンスによる撮影を試みた。追加したシークエンスとしては心筋病変や脳病変の量的評価を可能にするため、これまでT2値の評価を行っていたが、本年度より新たにT1値計測シークエンスを追加した。また血管病変を評価するため、Balancedといわれる、血管描出能の高いシークエンスも追加した。また拡散係数の変化を見るため、様々なb値による拡散強調画像が評価可能なIVIMシークエンスを追加した。その結果として本年度は、既知の検討事項に対する、ポジティブコントロール、ネガティブコントロールがそれぞれ蓄積された。また既述の通り、新たに、扁桃腺のうっ血の程度の評価や、下垂体病変の評価など新しい死後MRIの有用性が見出された。一方で、血管病変に対する死後MRIの欠点も浮き彫りとなりになった。研究協力病院においての死後ホルマリン固定後脳の検討も進んでおり、解剖前の死後MRI脳と対応がみられるという知見も得られてきた。以上のように、当研究は当初の計画が予定通りに進んでいるだけでなく、シークエンスを追加し、新たな知見が得られるに至っており、実際の想定よりも進展していると評価可能と考えられる。
上述の通り、本年度、本研究は当初の想定以上の進捗が見られている。今後も当初の計画通り、事例数を集め、成果をより確定的なものにしていくのが今後の課題である。平成29年度の検討の結果、新たに改善、改良されたMRIシークエンス(既述の通りT1値計測プロトコル、血管描出能を判定するBalancedシークエンスの追加、拡散強調画像における死後変化を調べるためのIVIM解析など)を継続的に撮影し、必要に応じて、修正を加えながら、対象事例を蓄積していく。研究協力病院においても引き続き、固定後臓器MRI撮影、血液サンプル撮影を行っていく。適宜症例数が集まった時点で、各検討課題について、知見をまとめ、学会発表や論文報告を行っていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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