炎症性腸疾患の治療には炎症反応の軽減のみならず、粘膜上皮の適切な修復・再生の誘導が必須である。そのため、抗炎症薬の開発に加えて、組織修復能を高める標的因子の探索が必要となる。本研究では、炎症性腸疾患の発症における腸管間葉系細胞群の細分化を行い、腸炎発症時に粘膜治癒に働く細胞集団の同定を目指している。研究計画最終年度である本年度は、新たに同定した粘膜修復候補因子の機能解析を行うとともに、炎症時における間葉系活性化並びに候補因子の作用機序についてその詳細を解析した。 炎症時にI型コラーゲン産生能が増強する細胞群に着目し、網羅的遺伝子解析を行った結果、A Disintegrin And Metalloprotease(ADAM)ファミリー分子を発現する特定の細胞集団が炎症時に増加することが明らかとなった。当該細胞集群の遺伝子プロファイリングを行った結果、粘膜修復に関与する可能性のある候補因子を複数同定した。さらに、欠損マウスを用いた解析を進めるとともに、新規修復候補因子に対する阻害抗体を作製しマウスへの投与実験を行った。その結果、候補因子が実際に粘膜修復因子として機能していることが見出された。腸炎発症後に、粘膜修復が遅延もしくは停滞したマウスにおいては、粘液(ムチン)層の形成も遅れるため、粘膜固有層中に常時菌の浸潤が観察される。このような個体では、血清中の抗常在菌抗体価が亢進しており常在菌の全身拡散が示唆される。得られた研究成果については、現在投稿に向けて進めていると同時に、本研究で作製した阻害抗体について、ヒト間葉系細胞への反応性ならびに腸炎のバイオマーカーとしての可能性について検証を進める。
|