将来的な移植治療に向けて、GMPレベルの培養条件内で完結可能な心筋細胞分化用iPS細胞樹立プロトコールを確立すること、さらにiPS細胞樹立後の各種の未分化性と安全性の評価プロトコールを最適化し、移植用としてふさわしくない細胞株を排除し、移植に適するiPS細胞株を短期間で選抜する体制を確立すべく、研究を行った。ヒトでの臨床利用において求められるGMP基準とiPS細胞の樹立を両立するべく、動物由来成分の含有が最小限であり、かつ生物由来原料基準をクリアできる培養プロトコールの確率に成功した。また、iPS細胞の品質管理に用いる遺伝子マーカーを同定するため、公開データを含めた多数の発現データから核型を推定し統計的に解析を行うことで、臨床用に適さないiPS細胞株を迅速に見分ける方法の確立を試み、700個のヒト多能性幹細胞のマイクロアレイデータの解析から、ヒトiPS細胞の最頻度の核型異常である12トリソミーを簡便に見分けるマーカーとしてGTSF1を同定、さらに12トリソミーに限定せず、ヒトiPS細胞の核型異常を見分けるマーカーとしてETV5を同定した。当該マーカーを用いることで、ヒトiPS細胞の樹立から選抜におけるプロトコールにおいて、費用負担の大きいゲノムシーケンスを行う前に、RT-PCRを含めた簡易かつ限られた遺伝子の発現を調べるだけで核型異常を有する細胞株を一定の精度で排除することが可能となった。また、異常な形態を機械的に判別することで均一化されたiPS細胞の選抜法の確立を目指し、ディープラーニングを用いたiPS細胞株の形態判断を行うことにより、細胞株を識別する条件系の確立に成功した。これらの成果はヒトiPS細胞株の実利用において有用な技術となると考えられた。
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