Respiratory syncytial virus (RSV)は、そのコンポーネントタンパクのひとつであるGタンパクによりTh2免疫応答を誘導する。これが従来のRSVワクチン (ホルマリン固定不活化RSV: FI-RSV) 接種後のRSV感染に伴う喘息様のアレルギー応答の誘導の原因である。一方これまでの本研究では、RSV感染やFI-RSV接種によりgrowth arrest-specific 6 (Gas6) が産生されることを明らかにした。これらの機構として、Gタンパクが樹状細胞に作用するとGas6が産生され、その受容体であるAxlを介してTh2免疫応答であるアレルギー性気道炎症を誘導することを示した。世界的に安全かつ有効なRSVワクチンの開発には至っていないが、これまでに我々が見出した結果から、Axlを標的としたアレルギーを誘導しないワクチン接種法の開発ができるのではないかと予想した。そこで、Axl阻害剤であるBGB324を抗原 (FI-RSVやリコンビナントRSV Gタンパク) と混合したものを接種し、その後RSVに感染させると、アレルギー性気道炎症はほとんど誘導されなかった。しかも阻害剤接種群ではIgG2産生の促進と、ウイルスの複製の抑制がみられた。すなわち、Axl阻害剤はアジュバント様の効果を示し、RSVの抗原に関わらず安全性と有効性を担保した新規ワクチン接種法の開発につながることを示唆した。また我々は、RSV感染重症患者の血中には、pre型fusion (pre-F)タンパクに対するIgGが多く存在するが、Gタンパクに対するIgGはほとんど存在しないことを明らかにした。一方、RSV非感染者は、Gタンパクに対するIgGを多く持つことを見出した。すなわち、RSVのGタンパクに対するIgGを誘導するワクチン開発の意義を示唆した。世界的にはpre-Fタンパクに対する抗体を誘導するワクチンの開発が盛んに行われているが、Axl阻害剤をアジュバントとすれば、Gタンパクを抗原としたワクチン接種により、RSV感染に対してより防御能の高い抗体の誘導が期待される。
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