研究課題/領域番号 |
16H06247
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
金蔵 孝介 東京医科大学, 医学部, 講師 (10508568)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / C9orf72 |
研究実績の概要 |
昨年度同定したRepeat長依存性開始コドン非依存性翻訳(RAN翻訳)抑制化合物の有効性を動物モデルで確認するために、Jackson LaboratoryよりC9orf72遺伝子高発現モデルマウスを導入し、SPF化とホモ化を行った。同マウスの大脳切片を用いてRAN翻訳産物に対する免疫組織染色を行い、実際にRAN翻訳が起こっていることをin vivoで確認した。現在抗体の選択と染色の最適化を進めている。今後本マウスを用いてRAN翻訳抑制化合物の有効性を確認する予定である。 C9orf72遺伝子がRAN翻訳により産生するジペプチドのうちアルギニンを含むpoly-PRとpoly-GRが神経毒性の中核を担うと予想されている。我々は1) poly-PRのアルギニンの正電荷がRNAのリン酸基の負電荷と引き合うことにより、オリゴマー化を促進し、液体液体相分離を起こすこと、2) アルギニンを含む他のペプチドと異なり、蛋白翻訳抑制を示すこと、3) 細胞毒性はペプチドの長さに依存することなどを明らかにし、報告した(Kanekura et al., Sci Rep 2018)。アルギニンを含むpoly-PR/GRはin vivoにおいても蛋白翻訳を抑制して神経細胞死を起こすことが他機関からも追試され(Zhang et al., Nat Med 2018)、C9orf72によるALS発症機構に極めて重要な役割を果たすことが確認された。 Coriell Instituteから導入したC9orf72患者由来細胞については皮膚線維芽細胞での表現系が得られなかったため、iPS細胞での表現系の探索を続けている。まず正常iPS細胞を用いて神経系への誘導を行い、繰り返して神経系への分化を確認したため、今後これらの患者由来細胞に基づいた神経細胞を樹立し、RAN翻訳を確認した上でRAN翻訳抑制化合物の有効性を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではオミクス技術を駆使し、C9orf72遺伝子変異による神経細胞死機構を解明し、小化合物スクリーニングを通してALS根治薬を開発することを目標としている。本研究で昨年度までにC9orf72遺伝子変異による神経毒性の中核となるジペプチドを産生するRAN翻訳抑制化合物を同定しており、本年度はその検出系の最適化を行った。米国Jackson LaboratoryよりC9orf72トランスジェニックマウスの導入を行い、SPF化およびホモ化と免疫組織染色の最適化によるジペプチドの検出系の確立を行った。また患者由来神経細胞の樹立へ向け、コントロールiPS細胞での神経細胞樹立も順調に進んでいる。次年度これらの確立された評価系を用いてRAN翻訳抑制化合物の有効性を検討する。また、C9orf72遺伝子変異による神経毒性の中核となるジペプチドの神経毒性機構についてさらに知見を深め、原著論文として発表した(Kanekura et al., Sci Rep 2018)。我々が報告したpoly-PR/GRの蛋白翻訳抑制による神経細胞死機構についてはin vivoでも追試され、C9-ALSの発症に極めて重要であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で前年度までにC9orf72遺伝子変異による神経毒性の中核となるジペプチドを産生するRAN翻訳抑制化合物を同定していたが、同化合物の有効性は高発現レポーター活性で検出していたため、より生理学的な評価系として本年度Jackson LaboratoryよりC9orf72トランスジェニックマウスを導入した。本マウスの大脳を用いた免疫組織染色により、C9orf72由来のジペプチドの検出系が確立された。 また現在進めている患者由来神経細胞をiPS細胞より樹立し、RAN翻訳の評価を患者由来神経細胞で行う予定である。これらの確立された評価系を用いて、前年度我々が同定したRAN翻訳抑制化合物の有効性を検討する。
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