研究課題/領域番号 |
16H06249
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
片岡 圭亮 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (90631383)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 成人細胞白血病リンパ腫 / 遺伝子解析 / 遺伝子異常 / 遺伝子改変モデル |
研究実績の概要 |
我々は成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)において包括的かつ網羅的な遺伝子解析を行うことにより、世界に先駆けてその遺伝子異常の全貌を解明した。次に必要なのは、これらの遺伝子異常の臨床的意義や生物学的意義を解明し、それに基づいてATLの分子病態を明らかにすることである。 そのために、まず、臨床的に重要な遺伝子異常を抽出することを目的として、約200例の大規模なコホートで遺伝子異常と進行性の病期や予後不良との関係を解析した。その結果、TP53変異、IRF4変異、および、複数のコピー数異常が進行性の病期(急性型・リンパ腫型)と関連があることを見出した。さらに、予後解析により、急性型・リンパ腫型では年齢やIRF4変異が予後不良因子となること、一方、慢性・くすぶり型ではTP53変異やIRF4変異、CDKN2Aコピー数減少が予後不良因子となることを明らかにした。これらの結果は、ATLにおいて、世界で初めて網羅的な解析により、特定の遺伝子異常が進行性の病期や予後不良と関連があることを示したものである。 現在、この結果を受けて、ATLにおいて臨床的に重要と考えられたIRF4変異を持つ条件的ノックインマウスを作成中であり、既にそのキメラマウスを得ている。今後、Vav-cre マウスと交配させて造血系全体でIrf4変異を発現するマウスモデルを作成して解析する予定である。同時に、ATLにおいて高頻度にホットスポットのミスセンス変異を認めるPRKCB変異を持つトランスジェニックマウスを作成し、解析を行った。本マウスでは、PCRおよびサザンブロットにて目的のマウスが得られていることを確認した後、造血系・免疫系の評価を行ったが、表現型を認めなかった。この理由として、hCD2プロモーター下にヒトPRKCB変異を発現させていたが、マウスPrkcbと比較して十分なmRNA発現を認めなかった可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、申請者が明らかにした、成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)における遺伝子異常の全体像に基づいて、これらの遺伝子異常の臨床的意義や生物学的意義を解明し、ATLの分子病態を明らかにすることである。まず、最も重要であると考えていた、ATLにおける臨床的に重要な遺伝子異常の同定に関しては、約200例の大規模なコホートで遺伝子異常と病期および予後との関係について解析を実施することが出来た。その結果として、進行性の病期や予後不良と関連する遺伝子異常を同定することが出来た。そのため、本研究の第一義的な目的は達成できており、研究は非常に順調に進展していると考えられる。 分子病態の解明については遺伝子改変マウスを用いた実験を中心に進めている。上記の遺伝子異常と予後の関係の解析の結果を受けて実施している、Irf4変異を持つ遺伝子改変マウスの作成も予定通り進んでおり、次年度以降のマウス解析の進展が期待できると考えている。一方、元々予定していたPRKCB変異を持つ遺伝子改変マウスの作成も順調に進んだが、造血系・免疫系の解析結果は陰性の所見であった。この理由として、hCD2プロモーター下に発現させたヒトPRKCB変異の発現が不十分であった可能性が考えられた。しかし、本プロモーターはT細胞特異的に遺伝子を発現させるトランスジェニックマウスでよく用いられているものであり、今回の結果は不可避であったと考えられる。 今年度は上記の解析に注力したため、一部の研究計画に関しては十分な進展を認めなかった。それらを総合的に勘案して、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、申請者が明らかにした、成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)における遺伝子異常の全体像に基づいて、これらの遺伝子異常の臨床的意義や生物学的意義を解明し、ATLの分子病態を明らかにすることを目指してきた。今年度は、約200例の大規模なコホートで遺伝子異常と病期および予後との関係について解析を実施し、進行性の病期や予後不良と関連する遺伝子異常を同定することが出来た。今後、さらに症例数を増やし、現在不足している既存の予後モデルに含まれる臨床情報を集めて、より頑健な遺伝子異常と臨床情報の両方に立脚した予後予測モデルを作成する予定である。 分子病態の解明については遺伝子改変マウスを用いた実験を中心に進めてきた。上記の遺伝子異常と予後の関係の解析の結果を受けて実施している、Irf4変異を持つ遺伝子改変マウスの作成も予定通り進んでおり、今後、Vav-creマウスを掛け合わせた上で、造血系・免疫系の表現型の解析を行う予定である。一方、PRKCB変異を持つ遺伝子改変マウスも作成できたが、造血系・免疫系の解析結果は陰性の所見であった。その理由として、hCD2プロモーター下に発現させたヒトPRKCB変異の発現が不十分であった可能性が考えられた。そのため、今後はIrf4変異マウスを中心に取り組む予定である。 さらに、今後は、上記の解析に注力したために十分な進展を認めなかったPLCG1の機能解析に関しても次年度は積極的に実施する予定である。
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