研究課題
ヒト膵癌組織では間質量や浸潤様式に個体差があることから、ヒトおよび遺伝子改変自然発癌マウス(KPC :KrasLSL-G12D/+;Trp53LSL- R172H /+;Cre)の膵癌組織を用いて膵癌オルガノイドを樹立し、膵癌細胞のphenotypeに応じて誘導される膵星細胞とその基質リモデリング能の解析を行うことで、膵癌phenotypeに応じた個別化治療を開発することを目的として研究を行っている。In vitroにおいて膵星細胞が膵癌オルガノイドの基底膜破壊およびleading cellとしての基質リモデリングを行っていることが示唆されたため、これをin vivoで検証した。膵癌オルガノイドと基底膜破壊に関わるとされるMMP2あるいはMT1-MMPを shRNAでノックアウトした膵星細胞をヌードマウスへ共移植したところ、膵癌増生および浸潤能の低下を認めた。また、これまで3例のヒト膵癌由来オルガノイドを使用し解析を行ってきたが、オルガノイド樹立効率の向上により、さらに8例のヒト膵癌由来オルガノイドの樹立に成功した。これにより計11例のヒト膵癌由来オルガノイドを用いた膵癌phenotypeごとの分類が可能となり、形態学的にもductal typeやcribriform type, solid typeに分類できた。各オルガノイドは同一検体由来の膵星細胞も樹立しており、それらを用いた共培養モデルを作製し、膵星細胞の間質増生能を評価し、実際の組織標本における間質量と比較・検討を行った。また、これらをcancer panel sequenceによってゲノム解析を行い、膵癌オルガノイドのgenotype解析を行い、これら膵癌オルガノイドのgenotypeと3次元共培養モデルにおける膵星細胞との癌間質相互作用への影響といった膵癌phenotypeを照合し解析を進めた。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に沿って、shRNAによってノックダウンした膵星細胞と膵癌オルガノイドをヌードマウスに共移植し、癌の増殖・浸潤能について評価できた。これにより、in vivoにおいても膵星細胞のMMP2あるいはMT1-MMPが、コラーゲンⅣからなる基底膜の破壊を介して癌細胞の浸潤能に強い影響を与えていることを確認した。また、ヒト由来膵癌オルガノイド樹立件数が大幅に増加し、これらのゲノム解析を行うことで膵癌phenotypeごとの遺伝子学的背景が明らかとなった。ただし、マウス共移植モデルにおいての癌が膵星細胞の間質増生能へ与える影響については検体数が少なく検証不十分であった。
樹立した11例の膵癌オルガノイドを用いて、ヌードマウスへの共移植モデルをそれぞれ作成し間質増生能について比較・検討を行う。また、原発巣のみではなく、転移巣、播種層についても検討を行ない、間質の特徴がリンパ節転移、肝転移、腹膜播種に与える影響についても検討する。これらによって、膵星細胞の間質増生に影響を与える癌細胞由来の因子を検索し、同因子を標的とした遺伝子改変膵オルガノイドの作成や化合物投与試験を行い検証する。
すべて 2018
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Cancer Letters
巻: 425 ページ: 65~77
10.1016/j.canlet.2018.03.031