ヒト膵癌組織では間質量や浸潤様式に個体差があることからヒト膵癌組織から膵癌オルガノイドを樹立し、膵癌細胞のphenotypeに応じて誘導される膵星細胞とその基質リモデリング能の解析を行うことで、膵癌phenotypeに応じた個別化治療を開発することを目的として研究を行ってきた。前年度までに樹立した8つのヒト膵癌オルガノイドを用いて膵星細胞との3次元共培養モデルを作製し、それぞれの膵癌オルガノイドをphenotypeごとに分類した。それぞれのオルガノイドをH.E染色を用いて形態学的評価を行うと、低分化型・中分化型・高分化型の3つのsubtypeに分類でき、いずれも実際の膵癌組織の形態を維持していた。オルガノイド培養を行う上で微小環境因子の添加を行うが、分化度が高くなるにつれて微小環境因子への依存性が高かった。微小環境因子依存性の高分化型膵癌オルガノイドは血清培地下では培養不可であるが、膵星細胞と共培養を行うと微小環境因子のない血清培地下でも培養可能であった。したがって、高分化型膵癌細胞は膵星細胞に依存してホメオスタシスを維持していることが示唆された。実際の組織標本においても、高分化型膵癌では低分化型よりも周囲の間質量が多い傾向にあり、高分化型phenotypeでは膵星細胞との相互作用により癌細胞自身のホメオスタシスを維持している一方で、膵星細胞の基質リモデリングが亢進している可能性が示唆された。これら膵癌オルガノイドをマイクロアレイ発現解析し、phenotypeに応じた細胞増殖パスウェイを比較解析した。高分化型phenotypeではメバロン酸代謝を中心とした脂肪酸代謝が亢進しており、一方で低分化型ではプロテアソーム代謝が亢進していた。以上から高分化型ではスタチン系薬剤、低分化型ではプロテアソーム阻害剤が有効である可能性が示唆された。今後はこれら薬剤を用いた治療効果判定を行い、有効性を検討していく予定である。
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