研究課題
変形性膝関節症に伴う半月板損傷や軟骨変性に対し優れた再生医療技術を開発することは、国内だけでも疼痛等の症状を有する約850万人と推定される莫大な規模の患者に待ち望まれている。さらに、要介護の原因の10%が変形性関節症と試算されており、社会保障費増加による財政圧迫が大きな社会問題となっている。超高齢化社会を迎えた我が国において健康寿命を延伸させるため、短期で実用化可能な運動器疾患に対する質の高い治療法開発が急務である。本研究課題では、これら運動器疾患に対する新規治療法を開発するため、齧歯類の再生能に着目した新たな医療技術の開発に取り組んでいる。治療に用いる滑膜幹細胞などの組織幹細胞は高い増殖性だけでなく多分化能を有する細胞であり、その増殖・分化は自律的に決定されるだけでなく、周囲の細胞や基質によって制御されている。本課題で開発した分離技術を応用して滑膜組織の階層ごとに純化した細胞を解析し、高い増殖能、コロニー形成能、軟骨分化能、骨分化能、脂肪分化能を有している細胞を同定した。これらの高い軟骨分化能を有する細胞に特徴的な因子の探索を試みたところ、齧歯類の半月板再生過程で認められる2種の細胞の集合と近似する傾向を確認した。In vitroで細胞の集合を再現し、通常の分化能より高い分化能を再現することができた。その細胞間の相互作用に関する詳細な解析を実施中である。これら滑膜幹細胞が増殖していく過程を詳細に解析するため、タイムラプス動画で細胞の追跡を行い、成果を国際学会で報告した。また、純化した細胞を投与する際に必要となる保存技術についても検討を行い、論文化した。これら成果について特許出願を行っている。
2: おおむね順調に進展している
ヒト組織における滑膜構成要素毎に分離した細胞の詳細な機能解析を行った。本学倫理委員会に承認されて、患者の同意を得た本学附属病院整形外科における人工膝関節置換術時に得られた滑膜組織を用い、ヒト組織の解析を行った。滑膜組織を3つの構成要素に分類し、フローサイトメトリー法と蛍光標識モノクローナル抗体を用いた高精度な細胞分離法により純化し、細胞の増殖能、コロニー形成能、軟骨分化能、骨分化能、脂肪分化能を解析した。その結果、分類した細胞において高い能力を有する細胞を同定し、論文を投稿した。これらの高い軟骨分化能を有する細胞に特徴的な因子の探索を試みたところ、齧歯類の半月板再生過程で認められる2種の細胞の集合と近似する傾向を確認した。In vitroで細胞の集合を再現し、通常の分化能より高い分化能を再現することができた。その細胞間の相互作用に関する詳細な解析を実施中である。ヒト組織を用いた検証以外に、半月板切除モデル動物における再生過程を解析した。申請者らが独自に確立した半月板切除モデル動物において、再生過程の初期から後期の滑膜組織を採材し、組織再生過程を解析した。
・引き続き、半月板切除モデル動物に生じる劇的な再生過程での幹細胞局在を解析する。ヒト滑膜組織で得た知見を基盤として、滑膜組織を3つの構成要素に分類して、半月板切除モデル動物の自然治癒過程における幹細胞局在とその変動を解析する。滑膜構成要素の挙動を治癒過程の初期から後期にかけて観察する。・候補因子の発現に作用する添加・阻害物質を用いて解析する。一つの低分子薬物で作用しない可能性を鑑み、細胞種を混合させることで再現することを新たに計画する。同定した標的因子の発現に作用する物質または細胞を添加・阻害することで生じる滑膜幹細胞の増殖能、多分化能、遺伝子発現変動を解析する。候補因子のスクリーニング過程では、半月板切除マウスにおける滑膜幹細胞の挙動に付随する変動から、申請者らが保有している約150種類の抗体セットを活用した組織学的解析の結果を基盤として探索する。尚、in vitro解析系としては、recombinant proteinまたはinhibitorを用いて、従来培養法により樹立した滑膜幹細胞およびFACSにより局在毎に純化した細胞への増殖・分化に対する作用の検証を行う
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件) 産業財産権 (1件)
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