研究課題/領域番号 |
16H06263
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
小川 寛恭 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 特任助教 (70464104)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 軟骨細胞 / 運動刺激 |
研究実績の概要 |
運動刺激は軟骨細胞において細胞外adenosineシグナル経路を介してMMP13の発現を制御していること明らかとなった。まず、運動刺激による軟骨細胞の遺伝子発現の変化を明らかにするための実験系を確立した。マウス初代軟骨細胞を高密度で培養して、回転台上で培養してfluid flow shear stress(FFSS)を与えて遺伝子発現、特に軟骨変性のキータンパク質であるMMP13の発現変化を継時的にリアルタイムPCRで調べた。我々の設定した条件下で軟骨細胞にFFSSを与えると開始3日後からMMP13の発現が上昇することがわかった。当初、軟骨細胞はFFSSを与えると細胞外ATPを分泌してそれが細胞シグナルを活性化することでMMP13を発現すると考えていたが、実際には細胞外ATPはその分解酵素ecto-nucleotidase(CD39,CD73)によってadenosineに分解され、細胞外adenosineは軟骨細胞でのMMP13発現を著しく上昇し、さらに細胞外adenosineを減少させるCD39/CD73阻害剤はFFSSによるMMP13発現促進を抑制することが明らかとなった。 細胞外adenosine受容体であるA2B受容体はGタンパク質(Gq)結合受容体であることからPI3K/Ca++/Calmodulin/PKCシグナル経路を活性化すると推測される。実際、これらのシグナル分子の阻害剤は細胞外adenosineによるMMP13の発現上昇を阻害したため、当初の予定ではATP分解酵素ecto-nucleotidase(CD39,CD73)ノックアウトマウスが変形性関節症に耐性を示すかどうかを確認するための実験を行う予定であったが、今後の研究方針について変更を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ATP分解酵素ecto-nucleotidase(CD39,CD73)ノックアウトマウスを用いた実験を行う予定であったが、他の研究グループから全く同じの実験の結果が先に報告された。また、興味深いことにその結果は我々の予想とは反対にATP分解酵素ecto-nucleotidase(CD39,CD73)ノックアウトマウスは軟骨変性を促進するもので、細胞アデノシンは軟骨変性に対して保護的に働くというものであった。 この全く異なる結果が報告されたことから、一旦、我々の当初の研究計画の進め方を再検討した。当初予定していたマウス実験は一旦休止とし、細胞実験でアデノシンシグナルをさらに詳細に進めることとした。また、変形性関節症に重要な炎症性サイトカインとアデノシンとの関連性についても調べることとした。これまでのところ、炎症性サイトカインはインプラマソームの形成を介して軟骨変性を引き起こすことが知られているが、アデノシンによるMMP13の発現はインフラマソーム阻害剤によって抑制されることを見出した。このことは、運動刺激シグナルは細胞外アデノシンーインフラマソームシグナル経路を介してMMP13を制御していて、炎症性サイトカインとクロストークしていることが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、アデノシンと炎症性サイトカインのシグナルのクロストークについて明らかにする。細胞実験を用いて炎症性サイトカインIL-1bを加えてインフラマソームの形成過程におけるシグナル分子を明らかにし、細胞外アデノシンシグナルと炎症性サイトカインシグナルがどの分子を介して交差しているかを明らかにする。また、MMP13発現を制御する運動刺激または細胞外adenosineシグナル伝達経路を明らかにするために、プール型shRNAレンチウイルスライブラリーと時世代シーケンスを使用したゲノムワイドハイスループットスクリーニングを行う予定であった、これを一部変更して、炎症性サイトカインによるシグナル伝達によるMMP13の発現制御機構を明らかにする。その中で、アデノシンシグナルと交差するものを調べることとする。具体的には、ATACシークエンスを用いてMMP13発現に関与する転写因子を明らかにし、アデノシンシグナルと炎症性サイトカインシグナルによるMMP13を両方抑制するインフラマソーム阻害剤によって、MMP13シグナル経路がどのように変化するか、どの転写因子が重要かを明らかにしていく。
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