分子標的薬の治療効果を予測しうるゲノム異常プロファイルの同定に向け、平成28年度は主に検体の収集を中心に進めていった。診断時に既に転移を有している症例や、転移を生じるリスクの高い症例を中心に、およそ20症例について手術あるいは生検時に採取した検体の一部を凍結保存した。また、過去に手術検体を採取した症例で、新たに転移を生じ、分子標的薬を開始した症例も存在するので、解析可能な症例はさらに増えている。 また、血漿遊離DNAによる転移の予測や治療効果の評価に関しても、平成28年度中に検体収集を進めると同時に、一部の症例では検体からのDNA抽出と変異解析も行った。約30症例について、手術前および術後1週間の時点で採血を行い、血漿を遠心分離して凍結保存していたが、このうち16例についてcell free DNAの抽出を行った。同時に手術検体も採取しており、腫瘍DNAを抽出したうえで、VHL遺伝子の変異を同定した。血漿から抽出したcell free DNAについても、VHL遺伝子のシークエンスを行ったところ、4症例について腫瘍DNAと全く同一のVHL遺伝子変異を検出することができた。4症例のうち3症例については術後1週間に採取した血漿遊離DNAからは、変異は検出されなかった。残りの1症例は、既に転移のある症例だったが、術後1週間に採取した血漿遊離DNAからも、同じ変異を検出することができた。このことは、血漿遊離DNAの解析結果が病勢を反映する可能性を示唆しており、より解析の精度を上げることによって、転移の予測や治療効果の評価に有用となりうるものと考えられる。
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