妊娠高血圧腎症(PE)は、妊娠中の高血圧を主徴とする疾患であり、母児の周産期罹病の主因である。低酸素、炎症などのストレスによる胎盤のダメージがPEの発症に深く寄与することはよく知られているが、その詳細な機序はいまだ不明な点が多い。PEに対する病態に即した有効な治療法は存在せず、PEの発症における分子機序の解明および治療法の開発は我々周産期医療従事者にとっては喫緊の課題である。本研究では、申請者らが明らかとしてきた、胎盤でのアデノシンシグナルや、転写因子Hypoxia inducible factor (HIF)のPE病態への関与について主に着目し、多角的に研究を進めた。以下に得られた実績をまとめる。 <実績1>転写因子HIF-1αが、アデノシンシグナル関連分子であるXおよびYの発現誘導を介して、妊娠高血圧腎症(PE)における胎盤でのアデノシンシグナル経路の増強に関与していることを、動物モデルや絨毛細胞を用いた検討により、明らかとした。<実績2>血管内皮障害の改善効果の予想される薬剤Xの投与が、PEモデルマウスの症状を改善することを明らかとした。<実績3>絨毛細胞におけるHIF-2αの亢進が、PEで認められる胎盤でのPLGFの発現低下に関与することを見つけた。<実績4>胞状奇胎において、sFlt-1、PEに密接に関連する炎症性サイトカインXの発現が亢進しており、胞状奇胎での高頻度のPE発症の背景にある機序として重要であることを示した。
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