研究課題/領域番号 |
16H06272
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
前川 知樹 新潟大学, 医歯学系, 助教 (50625168)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 抗炎症分子 / 歯学 / 細菌叢 / 免疫学 / 歯周病治療学 / トランスレーショナルリサーチ |
研究実績の概要 |
本研究は歯周病を対象として,内因性抗炎症分子であるDel-1の機能を利用し,炎症・細菌叢・骨破壊を制御することを目的としている.平成28年度は,Del-1をタンパク質構成ドメインごとに欠損させた,未知の機能をもついくつかの変異Del-1の作製に成功した.新しい歯周病モデルを用いて,ドメイン欠損型Del-1の炎症・細菌叢・骨吸収に与える影響を解析したところ,ドメイン依存的に,好中球遊走阻止による炎症抑制効果と破骨細胞の分化と活性の抑制効果があること,さらに異常となった細菌構成バランスの改善が認められた. Del-1と炎症性の骨吸収の関係性をさらに詳細に解明するために,Del-1と骨吸収に重要な因子であるWnt5aとの相互作用(競合的拮抗)に関しての裏付けのための研究を行った.歯周病患者の歯肉組織からの病態解析をおこなったところ,罹患患者の歯肉組織にて健常な歯肉と比較してWnt5aの産生は上昇しており,Wnt5aと骨吸収に関連するレセプターへの結合を制御することが,歯周病を抑制するのに重要であることを明らかにした. また,Del-1のWnt5aと相互作用を明らかにするために,Wnt5aと親和性のある破骨細胞表面レセプターRor2とDel-1との関連性に着目した.Del-1は,Ror2と親和性があり,Wnt5aと競合的に作用する可能性があることが示唆された.事実,Del-1は,Wnt5aによる破骨細胞への分化を抑制し,炎症も同時に抑制していることが明らになった.さらにDel-1を構成しているドメインごとに,Wnt5a競合部位とインテグリン結合部位が新規に認められた.この結果を再検討した上で,次年度からはDel-1の炎症性骨吸収の制御機構のさらなる詳細な解明が期待できる.本研究は引き続き次年度にも推進していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度当初に予定されていたドメイン欠損型のDel-1の作成は終了しており,その他に本研究計画の遂行時に新しく知見を得たDel-1と新しい分子と受容体との機能解析がスタートした.その結果,いくつかの国際英文雑誌への投稿が1カ年目で可能となり,いくつかの学会発表にいたった.また,同内容は,学会や研究会でのシンポジウム発表にもつながった。動物実験においては新たに同定し,作成したドメイン欠損型のDel-1の投与により,ドメインごとのDel-1の細菌・炎症・骨破壊における制御機構と有効性に関する結果が得られていることから,概ね順調に進歩していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
Del-1とWnt5a-Ror2経路の知見が新しく認められたことから,Ror2KOマウスとDel-1KOマウスを用いた炎症性骨吸収抑制の詳細なメカニズムの解明を行う.特にRor2,De-1,Wnt5aの3者の分子間相互作用は,Biacoreを用いて定量的に解析を行う. 次に,前年度に同定された高効率のDel-1を歯牙結紮による歯周炎モデルマウスの歯周炎患部局所に接種し,Del-1の歯周炎へ治療効果を評価する.ヒト,マウスどちらにおいても老齢ではDel-1の発現が減少しているため,モデルマウスには,若齢と老齢マウスを用いる. Del-1接種後に歯周炎の重症度評価を行い,年齢との関連性を検索する.さらに,歯周炎モデルマウスに対するDel-1による治療効果の評価において,細菌の構成バランスの変化と組織浸出液(歯肉溝浸出液)の分子生物学的解析により,Del-1接種法が与える影響を検索する.特に,細菌構成バランスを崩す作用のあるKeystone細菌の候補であるP. gの絶対量の変化や,細菌の構成バランスの変化については明らかになっていないため,Del-1接種後の歯周病モデルマウスの口腔内細菌をメタゲノム解析し,治療前との比較検討を行う.また,浸出液の定量的プロテオーム解析法を用いて,Del-1による炎症コントロールの評価を行う.
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