研究課題/領域番号 |
16H06284
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
香取 秀俊 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (30233836)
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研究分担者 |
高本 将男 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (30401144)
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研究期間 (年度) |
2016-04-26 – 2021-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
「光格子時計」の基礎物理の解明と深化を行うと共に、その工学的および基礎物理学的な応用に向けた実証実験を行った。 ① 光格子時計の更なる高精度化を図る。本年度は、Sr、Yb原子を用いる光格子時計において、高次の光シフトの影響を抑制するための光格子レーザー強度と周波数の「実効魔法条件」を決定した。これらの成果は、それぞれ論文誌に掲載された。また、複数の原子種で光格子時計を構築し、最適原子種を実験的に決定する。これに向けて、新たな原子種Cdを用いた光格子時計の開発を行った。本年度は、光格子時計として動作させる際の基礎パラメータであるCdの魔法波長および光格子ポテンシャルのトラップ深さを実験的に決定した。 ② 高精度な原子時計は、一般相対論的効果によって重力ポテンシャル計として機能する新規な量子センサーとして利用できる。このような新たな工学的応用の開拓に向けて、可搬型光格子時計の開発を行っている。本年度は、可搬型光格子時計を完成させ、東京スカイツリーに設置し、時計による高低差の精密計測を行い、光格子時計の相対論的測地技術への応用が有用であることを実証した。 ③ 高精度な周波数計測は基礎物理学への展開として、異種原子の時計周波数比較による物理定数の恒常性の検証を行う。SrとYb、YbとHg原子を用いた光格子時計の周波数比データの詳細な解析を行った。また、昨年度までの周波数比測定を改善するために、Hg原子を用いた光格子時計の装置の改良を行った。 ④ 光格子時計が基礎をおく魔法周波数トラップの新しい応用を探索する。その一環として、中空ファイバを用いた超放射レーザーの実現を目指す。本年度は中空ファイバ中の原子の連続ポンピングのために必要な装置の設計・開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
① SrおよびYb光格子時計では、光格子中の原子の量子状態を制御し、原子の受ける光格子レーザー強度を正確に見積もったうえで、光格子レーザーによる時計遷移の周波数シフトを精密に測定し、原子の分極率(E1,M1-E2,超分極)を正確に評価した。得られた分極率をもとに、高次の光格子ポテンシャルの寄与を抑制するための光格子レーザー強度と周波数の条件(実効魔法条件)を決定した。Cd光格子時計の開発では、まず、狭線幅遷移を用いてCd原子を効率よく極低温にレーザー冷却する技術を確立した。この手法を使い冷却した極低温Cd原子を光格子に捕獲し時計遷移を分光することで、光格子時計として動作させるための基礎パラメータである魔法波長およびトラップ周波数を実験的に決定した。 ② 時計分光用真空槽および原子冷却・分光用レーザー光源の小型化、可搬化を行い、可搬型光格子時計システムを実現した。このシステムを東京スカイツリーの0m、450mに設置し、時計による高低差450mの精密計測を行い、光格子時計の相対論的測地技術への応用が有用であることを実証した。 ③ 本年度は、昨年度に行ったf(Yb)/f(Sr)、f(Hg)/f(Yb)の周波数比の測定の詳細な解析を行った。周波数比の不確かさを制限しているHg光格子時計の改善のために、光格子レーザー強度を増強するための装置の改良を行った。 ④ 中空ファイバ中の魔法光格子を用いるミニチュア・超放射レーザーの研究に関しては、時計遷移への影響の少ない連続ポンピングを実現するため、自発的パラメトリック下方変換光子対光源及びその伝送のための分散補償系を開発した。また、中空ファイバに冷却原子を導入するための真空チャンバー等の設計も新たに行った。
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今後の研究の推進方策 |
① 光格子時計の更なる高精度化に向けて、光格子ポテンシャルの高次の効果を抑える実効魔法条件を適用し、高精度な時計比較を実現する。また、上記動作点での光シフトの評価から、その有効性を議論し、その他の不確かさ要因の評価とともに19桁時計精度の実現を目指す。Cd光格子時計の開発は、今までに実験的に決定した基礎パラメータをもとに、原子時計として高い確度・安定度が得られるように装置を最適化し、時計周波数の不確かさを評価する。また、周波数安定度の向上が期待される3次元光格子時計について、基礎パラメータを実験的に検証する。 ② 相対論的測地応用に向けて、気温・湿度・気圧などの変化が大きい環境下においても精度および長期安定性を担保する時計システムの構築を行う。また、このような時計システムのメンテナンスフリー化と長期連続安定動作を実現する。 ③ 基礎物理学への応用として、異種原子を用いた光格子時計の周波数比較により、物理定数の恒常性の検証を行う。時計遷移の分光に成功したCd光格子時計とSr, Yb, Hg光格子時計の周波数を光周波数コムでリンクさせる。それぞれの光格子時計の精度を向上させながら、異種原子の光格子時計の周波数比のデータを継続して取得することで、年単位での微細構造定数の恒常性の検証を行う。 ④ 光格子時計の応用の開拓として、超放射レーザーの実現に向けて設計・開発している自発的パラメトリック下方変換光子対光源と中空ファイバを導入した真空チャンバーを用いて、引き続き原子励起の検証実験を行う。
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