研究課題
「光格子時計」の基礎物理の解明と深化を行うと共に、その工学的および基礎物理学的な応用に向けた実証実験を行った。① 光格子時計の更なる高精度化を図る。Sr原子を用いる光格子時計では、リング共振器を用いた光格子時計を用いて、光格子ポテンシャルの高次効果を抑える動作点の検証を行った。また、光格子時計の最適原子種の実験的評価のため、Cd原子を用いた光格子時計の開発を行い、光格子時計の最重要パラメータである光格子の魔法波長の決定に成功した。この成果は論文誌に掲載された。② 高精度な原子時計は、一般相対論的効果によって「重力ポテンシャル計」として機能する新規な量子センサーとして利用できる。このような工学的応用への展開に向けて、光格子時計の相対論的測地技術としての有用性を実証する。本年度は昨年度に引き続き、高精度な可搬型光格子時計システムを用いて、東京スカイツリーにおいて一般相対論検証実験を行い、得られたデータの解析を行った。この成果は論文誌に掲載された。③ 高精度周波数計測の基礎物理学への応用として、異種原子の時計周波数比較による物理定数の恒常性の検証を行う。本年度は、これまでに取得されたHg原子とYb原子を用いた光格子時計の周波数比のデータを解析し、その成果を論文誌に投稿した。④ 光格子時計が基礎をおく魔法周波数トラップの新しい応用を探索する。中空ファイバ中の魔法光格子を用いるミニチュア・超放射レーザーの研究に関しては、中空ファイバ導波路内における超放射の実験的観測と理論解析を組み合わせ、導波路中の超放射の挙動を解明した。この成果は論文誌に掲載された。また、中空ファイバを用いた超放射レーザー、および連続原子ローディング光格子時計の開発では、新たな時計装置の開発を行い、真空装置の立ち上げと原子の捕獲実験を行った。
2: おおむね順調に進展している
① Sr光格子時計の高精度化に向けて、光格子共振器と移動光格子による低温分光領域への原子の輸送を両立するリング共振器型光格子時計において、18桁精度時計比較と光格子ポテンシャルの高次効果を抑える動作点の検証を行った。Cd原子を用いた光格子時計の開発では、Cd原子を狭線幅スピン禁制遷移でレーザー冷却し、光格子に捕獲し、光格子レーザーによる光シフトを測定した結果、光格子レーザーの魔法波長を419.88 nmと決定することに成功した。② 可搬型光格子時計を用いて一般相対論の検証実験を行った。2台の時計を東京スカイツリーの地上階と展望台に設置して、18桁精度で時計比較を行い、重力赤方偏移を高精度に計測した。この結果を、従来の測量法で計測した標高差と比較することで、一般相対性理論を精密に検証した。開発した可搬型光格子時計により、地上実験でも、従来の衛星を用いた宇宙実験に迫る精度で一般相対論を検証できることが実証された。③ これまで測定されていたf(Yb)/f(Sr)、f(Sr)/f(Hg)の周波数比に加えて新たに測定したf(Hg)/f(Yb)の周波数比データの解析を行った。測定した周波数比およびそれぞれの時計の不確かさを評価し、f(Hg)/f(Yb)の周波数比を17桁精度で決定した。これにより、Yb/Hg/Srの周波数比の循環が1に整合することが確認され、時計の再現性が実証された。④ 魔法周波数トラップの新しい応用を探索するため、i) 中空ファイバを用いた超放射レーザーやii) 連続原子ローディング光格子時計手法等の開拓を行い、新しい研究シーズの探索を行った。本年度は、i) 中空ファイバ中の原子の連続ポンピングのために必要な新たな真空装置の立ち上げ、光格子トラップの実現、ii) 原子分光領域と原子冷却・捕獲領域を空間的に分離した新たな時計装置を立ち上げ、磁気光学トラップを実現した。
① 光格子時計の更なる高精度化に向けて、結晶性コーティング光共振器を導入することで、時計レーザーの高安定度化を図る。短い積算時間で高精度に不確かさを評価できる時計の開発を進め、光シフトの高次の効果やその他の不確かさをより精密に評価し、時計の高精度化を進める。② これまでに開発した可搬型光格子時計と光ファイバリンクを用いて遠隔時計比較を行う。2台の可搬型時計システムのうち1台を遠隔地に輸送し、光ファイバリンクに接続することで、リモート時計比較を実現する。時計装置がフィールド実験でも堅牢、高精度に動作可能であることを示す。③ 異種原子を用いた時計周波数の比の値の更新に向けて、Sr、Yb原子を用いた光格子時計では、新たなシステムを構築する。このシステムは、高精度化とともに可搬化も視野に入れた系であり、物理定数の局所座標不変性の検証などへの基礎物理応用を開拓する。④ 中空ファイバ中の魔法光格子を用いた超放射レーザーに関しては、新たに開発したフォトニックバンドギャップファイバを導入したシステムにおいて、ファイバ中での超放射の実現を目指す。また、光シフトが小さく時計遷移分光への影響の少ない連続ポンピングを実現するために、自発的パラメトリック下方変換光子対による原子励起の検証実験を行う。連続原子ローディングの実験を行い、新しい原子時計手法の開拓を行う。原子分光領域と原子冷却・捕獲領域を空間的に分離した新たな時計装置を開発し、原子の連続ローディング、時計遷移分光を試みる。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 8件、 招待講演 16件) 備考 (2件)
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