研究課題/領域番号 |
16H06288
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
小林 隆 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (70291317)
|
研究分担者 |
多田 將 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (00391706)
外山 毅 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 教授 (30207641)
Friend Megan 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (50649332)
南野 彰宏 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70511674)
HARTZ MARK 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 准教授 (70721702)
横山 将志 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (90362441)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-26 – 2021-03-31
|
キーワード | ニュートリノ / CP対称性 / J-PARC / スーパーカミオカンデ / ニュートリノ振動 |
研究実績の概要 |
加速器の高度化:(1)高感度2次元ビームプロファイルモニターのほとんどを製作・調達した。(2)新しいBPM処理回路のためのアナログ信号入力回路を試作、高調波歪 80 dB以下を確認。(3) H3方向薄板散乱体試験機を使って、ビーム試験を行い、鉛直方向に対するビームロス局所化性能向上の実証に成功。 ニュートリノビームラインの高度化:ビーム蛍光を用いた非破壊型陽子ビームプロファイルモニター開発においては、ガス注入時の圧力変化などを測定を進めた。また、実際にモニターを設置するトンネル内の場所で、蛍光信号の背景信号の評価を行い、背景信号の低減にむけた遮蔽体の検討などをすすめた。読み出しエレクトロニクスの高度化では、加速器の1秒周期に対応したモニター読み出しエレクトロニクスの開発を行った。1.3MWビームへの増強として、電磁ホーンの水冷バスバーへの配管の取り回し方法の検討などを行った。一方、320kAおよび1Hz運転に向けて、既に開発・製造した電源およびパルストランスの単体性能試験を行い、最終的には実負荷に接続して通電試験を行った。その結果、予想どおりの性能を満足することを実証した。 前置検出器高度化:より高性能な設計として,1cm角のプラスチックシンチレーターキューブを多数積層した新型の検出器構造を採用することを決定した。シミュレーションによる検出器性能の再評価,光検出器MPPCの要求仕様決定と初期生産分の購入,組み立て方法の開発,小型プロトタイプのビームテストによる性能評価を行った。 解析においては、電子ニュートリノ反応の内、パイ中間子が終状態に含まれる事象も新たに信号事象として捉えられるようにすることで、検出効率を高め、T2Kの感度向上に成功した。この改良された解析手法を2017年夏までの全てのデータに適用し、CP対象性が2σ以上の確度で破れていることを世界で初めて示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2次元ビームプロファイルモニターのトンネルへのインストールは、加速器運転のスケジュールから当該年度は無理であり、次年度に延期した。非破壊型ビームプロファイルモニターの開発に関して、トンネル内の背景信号が予想より多かったために、低減にむけた対策が必要となった。その後の研究で、背景信号の起因が周辺のビームロスによるものと分かり、具体的な対策を進めることができている。 水冷バスバーについては、試作機の開発を終え、現在は実用化に向けた研究開発を行っている。一方、パルス電源およびパルストランスは、本研究にて性能検証し320kAおよび1Hz運転の目処が立ち、実用化を果たした。それら装置は、年間2,500時間程度稼働している。 前置ニュートリノ検出器に関して,要求性能を精査した結果として新たな設計を採用したため,再評価や追加の開発が必要となった。ただし,その後は国際協力のもと急ピッチで設計開発が進んでいる。 解析手法の改良においては、統計精度向上のために、後置検出器(SK)の解析手法を改良した。新しい事象再構成ツールを開発し、SKの有効体積を大きくし、イベント純度を維持しながら、統計量を30%増加させた。また、信号事象として従来の電子ニュートリノ荷電準弾性散乱(CCQE:νe+n→e+p)に加え、CC1π事象(νe+N→e+π+N’)を追加した。これにより事象数期待値が約10%増加できた。2018年5月までのニュートリノモード15.1x10^20POT(Protons On Target)、反ニュートリノモード16.5x10^20POTのデータを解析し、ニュートリノCP対称性が破れていることを95%の確率で示すことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2次元陽子ビームプロファイルモニター:ビーム結合インピーダンスの対策を施して、トンネルにインストールし、コリメータ との併用によりビームハローの除去・ビームロスの低減方法の確立を目指す。ビーム位置モニターの高度化:新しいBPM処理回路のためのアナログ信号処理の全体回路を試作し、性能試験を行う。コリメータの高度化:機器損傷の起きない範囲で、ビームハロー除去性能の調査を続行する。さらに、ビーム・シミュレーションとの比較によりモデルの高度化を行い、理想的なコリメータ システムの構築を進める。チタンワイヤーを用いた新型SEM(Secondary-Emission-Monitor)の開発を実際のビームラインでの試験運用を目指す。非破壊型ビームプロファイルモニターでは、プロトタイプモニターを制作して、ビームラインへの導入を目指す。読み出しエレクトロニクスの高度化では、開発したエレクトロニクスの量産を進め、T2K実験での長期使用を行い、1秒周期への対応を早期に実現する。電磁ホーンの水冷バスバーについては、2020年度に実機を完成させ2021年度の設置を目指している。320kAおよび1Hz運転は、本予算により実機を製造し、2021年度の設置を目指している。前置検出器高度化では光検出器,信号読み出し回路,組み立て方法などの要素開発を完了させ,検出器全体の技術設計を決定し検出器の建設に向けた生産を開始する。 解析手法の改良において今後は、さらなる解析の改良にむけて、系統誤差の大きな要因であるニュートリノ原子核反応モデルの改良を行い、系統誤差の改善などを進める。また、CP対称性破れだけでなく、質量階層性も高い感度で検証するために、米国NOvA実験との合同解析やスーパーカミオカンデ実験の大気ニュートリノデータとの合同解析の準備を進める。
|