研究課題
本年度は、超高速量子シミュレーターの開発を進めるとともに、これを強相関量子格子模型へと応用するため原子集団の配列技術の確立を推進してきた。この結果、下記の重要な成果をあげることができた。1. 光双極子トラップ中の極低温87Rb原子集団をピコ秒パルスレーザーで励起するという独自手法によって強相関リュードベリ原子集団を創り出し、その超高速多体電子ダイナミクスを世界に先駆けて観測・制御することに成功した。これによって、研究目的である超高速量子シミュレーターのプロトタイプの開発に成功した。本成果はNature Communications誌に掲載され [Nat. Commun. 7, 13449 (2016).]、米科学誌Scienceをはじめとする欧米の20以上のニュースメディアやNHKテレビのニュースに大きく取り上げられた。2. ボース・アインシュタイン凝縮した高密度なRb原子集団を光格子トラップに導入し、超流動状態からモット絶縁体状態へと量子相転移を引き起こすことによって原子集団の3次元立方格子状の規則配列に成功した。さらに詳細なトラップ条件を検討し、光格子の各格子点に単一原子が局在する単一占有状態を実現した。3. 単一占有状態にあるモット絶縁体中の原子集団をピコ秒パルスレーザーでリュードベリ状態へと励起し、それに伴う電子ダイナミクスの観測に成功した。4. 原子配列の任意制御技術「ホログラフィック3次元原子トラップ技術」の開発に着手した。計算機ホログラム設計の知見を導入し、原子トラップ用光パターン生成のための位相パターン設計を進め、それらを光学的に評価する基礎実験を行った。また、空間光変調器を用いた「フォトニック擬似乱数発生器」に関連し、ランダムな輝度分布をもつ光パターンの空間相関構造および強度統計分布の両者を制御する新原理を見出し、特許取得準備を行った。
2: おおむね順調に進展している
1. 本年度は超高速量子シミュレーターのプロトタイプの開発に成功した。具体的には、光双極子トラップ中の極低温87Rb原子集団をピコ秒パルスレーザーで励起するという独自手法によって強相関リュードベリ原子集団を創り出し、その超高速多体電子ダイナミクスを観測・制御する基盤技術を確立できた。得られた実験結果の定量的な評価のために、海外の研究協力者と共同し、新しい理論モデル・解析手法の構築にも成功した。以上の研究成果について論文発表を行った。上記「研究実績の概要」の項目1に述べたとおり、この成果は世界的な注目を集めている。2. 現有装置に光格子トラップを導入し、超流動状態からモット絶縁体状態への量子相転移を引き起こすことによって、極低温87Rb原子集団の規則配列技術を確立した。さらにトラップ光のパワーや磁場を制御し、モット絶縁体の原子占有数の制御に成功した。その結果、光誘起衝突に伴う光格子トラップからの原子数ロスを測定することによって、単一占有状態の生成を実験的に確認した。3. 現有装置にマイクロ波装置類を導入し、超高速量子シミュレーターの初期状態である電子基底状態の超微細構造準位をマイクロ波断熱高速遷移という手法で高効率に (~100%) 準備した。4.上記2で生成した単一占有状態のモット絶縁体をピコ秒パルスレーザーでリュードベリ励起し、それに伴う電子ダイナミクスの観測に成功した。5. フォトニック擬似乱数発生器の開発は次年度以降の計画であったが、ランダム輝度分布光パターンもまた、3次元原子トラップ用光パターン同様計算機ホログラムにより生成できることが判明した。このため、ランダム輝度分布光パターン生成原理を確立することで両課題を統一し、研究遂行の効率化を果たした。
超高速量子シミュレーターのプロトタイプの開発を通じ、光トラップ中の極低温Rb原子集団をピコ秒パルスレーザーで励起することによって強相関リュードベリ原子集団を創り出すことが出来るようになった。この技術を規則配列した原子集団に適用し、そこでの量子多体ダイナミクスの観測・制御を進める。引き続き、原子を規則正しく3次元に配列する手法として光格子トラップを利用し、本年度に達成した単一占有状態のモット絶縁体を準備する。この規則配列したRb原子集団を波長779nmおよび481nmの2色のピコ秒レーザーパルスによって強相関リュードベリ状態へと二光子励起し、その後の多体ダイナミクスをより詳細に観測・制御することを試みる。原子間の相互作用強度はリュードベリ電子の電子軌道とリュードベリ状態のポピュレーションを制御することによって調節出来る。これと並行して、光格子中のRb原子集団の局所的な励起や観察を可能にする光学系を備えた、新しい装置の開発に着手する。浜松ホトニクスグループでは引き続き、原子配列の任意制御技術である「ホログラフィック3次元原子トラップ技術」の開発および関連する光学技術の整備を進める。光トラップにより多数の原子を捕捉する場合、各捕捉点あたり数mW程度の光量が要求されることから、高強度光源からの入射光に耐えかつ光利用効率の高い光学素子が必要となる。次年度は薄膜成膜装置を導入し、安定性、光利用効率、耐光性、特定複数波長対応性など、超高速量子シミュレーターに要求される特性を満たす光学薄膜の設計と成膜条件探査に着手する。併せて、所望の原子配列を実現する集光パターンおよび熱擾乱ポテンシャルを実現するランダム光パターンを生成するために、空間光変調器に表示する位相ホログラムパターンの設計・評価を継続し、より精密な集光パターンを実現するための位相パターン設計技術の確立を目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 8件、 招待講演 12件) 備考 (2件)
Nature Communications
巻: 7 ページ: 13449
10.1038/ncomms13449
Physical Review A
巻: 94 ページ: 053607
10.1103/PhysRevA.94.053607
https://groups.ims.ac.jp/organization/ohmori_g/index.html
https://www.ims.ac.jp/news/2016/11/16_3576.html