研究課題/領域番号 |
16H06289
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
大森 賢治 分子科学研究所, 光分子科学研究領域, 教授 (10241580)
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研究分担者 |
豊田 晴義 浜松ホトニクス株式会社, 中央研究所, 研究主幹 (80393940)
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研究期間 (年度) |
2016-04-26 – 2021-03-31
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キーワード | 超高速コヒーレント制御 / アト秒 / 量子多体問題 / 量子シミュレーター / 極低温リュードベリ原子 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に引き続き超高速量子シミュレーターの開発を進めるとともに、これを強相関量子格子模型へと応用するため原子集団の配列技術の確立を推進した。この結果、下記の重要な成果を挙げた。 1. 3次元立方格子状に規則配列させた極低温ルビジウム(Rb)原子の全てをピコ秒パルスレーザーでリュードベリ状態へと励起し、それに伴う電子ダイナミクスをリュードベリ状態の主量子数(リュードベリ電子軌道の空間サイズ)やポピュレーション等の関数として観測する世界初の実験システムを完成させた。 2. 新たに直線状に単一Rb原子が並ぶ1次元光格子を準備し、それら全ての原子をピコ秒パルスレーザーでリュードベリ状態へと励起することによって、1次元系における電子ダイナミクスをリュードベリ状態の主量子数やポピュレーション等の関数として観測する世界初の実験システムを完成させた。 3. 上記1,2と並行して、光格子中のRb原子集団の局所的な観察や、原子の任意配列トラップ等を目的とする新しい装置の開発に着手した。Rb原子を捕捉するための新たな光源を構築し、原子トラップの主要な構成要素である低速Rb原子線源と磁気光学トラップを完成させた。 4. 浜松ホトニクスグループでは前年度に引き続き、ホログラム技術を用いた原子配列の任意制御技術「ホログラフィック3次元原子トラップ技術」の開発を行った。今年度では特に、本目的に特化した特性を持つ光学素子の作成に必要な真空蒸着装置を導入し、装置の動作確認および製膜条件抽出作業を行うとともに、多波長空間光変調器(SLM)に関する薄膜設計を行った。また、ナノメートルレベルの原子捕捉間隔を実現する際に生じるスペックル様雑音成分を低減するホログラム手法を考案し、低NA光学系における実験によりその効果を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 3次元立方格子状に単一原子が規則配列するRb原子のモット絶縁体をピコ秒パルスレーザーでリュードベリ励起して生成される量子状態は私たち独自の手法によって世界で初めて可能となる新たな物質相であり、これを超高速量子シミュレーションに用いる前に、その物性を把握する必要がある。そのために、私たちはピコ秒レーザー励起後の電子ダイナミクスの詳細な観察を進めてきた。その途上で、イオン測定装置の検出効率を大幅に改善することに成功し、電子ダイナミクスをリュードベリ状態の主量子数(リュードベリ電子軌道の空間サイズ)やポピュレーション等の関数として幅広く観測することが可能になった。現在までに、多くの興味深い実験結果が得られている。 2. 上記の実験と並行して、光格子中のRb原子集団の局所的な観察や、原子の任意配列トラップ等を目的とする装置開発を進めている。この目的のために高NA対物レンズを用いた強集光光学系の設計を進め、鍵となる対物レンズの仕様を策定した。浜松ホトニクスグループと緊密に連携し、原子の任意配列トラップ用空間光変調器(SLM)の分子研グループへの導入準備を進めている。 3. 浜松ホトニクスグループでは前年度に引き続き、ホログラム技術を用いた原子配列の任意制御技術「ホログラフィック3次元原子トラップ技術」の開発を進めている。特にナノメートルレベルの原子捕捉間隔を実現する際に生じるスペックル様雑音成分を低減するホログラム手法を考案し、低NA光学系における実験によりその効果を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
超高速量子シミュレーターのプロトタイプの開発において、光トラップ中の極低温Rb原子集団をピコ秒パルスレーザーで励起することで強相関リュードベリ原子集団を創り出すことが可能となった。引き続き、この技術を規則配列した原子集団に適用し、そこでの量子多体ダイナミクスの観測・制御を進める。具体的には、原子を規則正しく3次元に配列する手法として光格子トラップを利用し、単一Rb原子が光格子の各サイトを占有するモット絶縁体を準備する。この原子集団に波長779nmおよび481nmの2色のピコ秒レーザーパルスを照射することによって強相関リュードベリ状態へと二光子励起し、その後の多体ダイナミクスを詳細に観測・制御する。原子間の相互作用強度はリュードベリ状態の主量子数(リュードベリ電子軌道の空間サイズ)とポピュレーションを制御することによって調節出来る。 また、前年度に引き続き、光トラップ中のRb原子集団の局所的な観察を可能にする光学系を備えた実験装置の開発を進める。この装置に浜松ホトニクスグループから供給予定のSLMを導入し、原子集団の任意配列トラップを試みる。 浜松ホトニクスグループでは引き続き、ホログラフィック3次元原子トラップ技術の開発、およびその周辺光学技術の整備を進める。本年度に導入した真空蒸着装置の条件抽出をさらに進め、特定複数波長における高反射率・透過率をもつ光学薄膜を作成するとともに、高耐光・高安定なSLMの試作を行い、分子研グループに供給する。また、ナノメートル領域で任意の原子配列を実現するためのホログラム技術開発も継続し、分子研で構築する超高速量子シミュレーター装置への導入を目指す。
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