研究課題/領域番号 |
16H06290
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 幸成 国立研究開発法人理化学研究所, 伊藤細胞制御化学研究室, 主任研究員 (80168385)
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研究分担者 |
武田 陽一 立命館大学, 生命科学部, 准教授 (20423973)
松尾 一郎 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (40342852)
梶原 康宏 大阪大学, 理学研究科, 教授 (50275020)
井原 義人 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (70263241)
戸谷 希一郎 成蹊大学, 理工学部, 准教授 (80360593)
平林 義雄 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, チームリーダー (90106435)
迫野 昌文 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 准教授 (50391959)
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研究期間 (年度) |
2016-04-26 – 2021-03-31
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キーワード | 糖タンパク質 / 糖脂質 / 小胞体 |
研究実績の概要 |
・糖タンパク質の品質管理機構における鍵となる糖転移酵素UGGTおよびグルコシダーゼII(G-II)の機能解明に向け、ミスフォールド型糖タンパク質を化学的に合成し、小胞体破砕液内の変換過程を精密に解析した。また、UGGTの触媒ドメインを効率よく発現させて基質との共結晶解析を行う道筋をつけ、UGGTと複合体を形成するSep15の結合部位を同定した。 ・モデルラットによる上記酵素の比較解析を行い、疾患との関連を見出した。不良糖タンパク質の分解に関わるマンノシダーゼ様タンパク(EDEM)およびそれらの変異体の活性検出をめざし発現系を確立した。小胞体内にエンドマンノシダーゼ活性があることを見出した。加えて、糖鎖認識シャペロンであるCNXおよびCRTがERp29と相互作用することを見出したことから、ERp29はCNX, CRTを連結するリンカーとして機能することが予想される。 ・研究を進めるための基盤として、1)連続反応による糖鎖の合成や新規な選択的グリコシル化反応の開発、2)擬ラセミ体結晶化に向けた糖タンパク質の効率的合成、3)マンノースの過程の解析に有用なツールの開発、を行った。 ・小胞体内で合成されるホスファチジルグルコシド(PtdGlc)とそのリゾ体(LPG) について研究を行った。PtdGlc生合成酵素がUGGTであることを支持する結果を得るとともに、Sep15が抑制的に作用していることを示すデータを得た。LPGがGPR55を介して特異な生物活性を示すことに着目し、様々なアナログを合成した。そのうちのいくつかはLPGと類似の活性を示すことが明らかとなった。 ・C-Man化糖修飾の小胞体でのタンパク質品質管理における機能を証明するため、Mindinをモデルとして解析を進めた。その結果、C-Man化はジスルフィド結合の形成を介したタンパク質フォールディングに重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究組織の強みが最大限に活かされるものに、合成基質を用いた糖タンパク質のプロセシングと品質管理機構の解明がある。今年度は、個別の酵素を用いた解析から脱却し、小胞体破砕液という複雑系を用いて実際に細胞内で起きている現象に迫るケミカルバイオロジー研究の端緒を拓くことができた。また、この過程に関わる酵素の詳細解析に向けた研究基盤がほぼ整い、残りの期間に向けた準備が整ったと考えている。糖タンパク質の選別過程についても、その解明に関して、着実に研究が進んでいる。病態モデルラットを用いた研究で、これらの糖タンパク質品質管理と疾患との関連を示唆する結果を得たことも新たな方向性を開くものである。また、ERp29がCNXと結合することを見出し、ERp29二量体がCNXを連結するリンカーとして機能する可能性が示された。EDEMについては、種々の変異体を含め、人工糖鎖基質に対する活性を解析中であるがいまだin vitroでの活性は見出されていない。より包括的なアプローチを行う必要がある。 合成手法の開発についても種々の新たな成果が得られている。関連分野への影響を踏まえ、当課題の成果として発信するべく準備を進めている。 PtdGlc の生合成へのUGGTの関与は、再現性よく活性を検出する系の確立に結びつけるべく、研究が進んでいる。技術的な困難を克服するために、集中的に検討する必要がある。 合成した各種のLPGのアナログの解析から、活性に必要な部位が明らかになってきた。また、系統的な構造活性相関研究に適した化合物も見出され、脂質部分、糖部分を改変した類縁体を多数合成する準備が整った。 Mindinの生合成解析からC-Man化の機能に関する新たな知見が得られた。小胞体でのタンパク質フォールディング特にジスルフィド結合の形成に関与することが示唆されたことは新たな端緒を拓く成果と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
完成度の高い成果に結びつけるため、以下の方策を考えている。 ・新規ミスフォールド糖タンパク質を用いて小胞体内代謝過程におけるグルコシル化の定量を行う。ミスフォールド型糖タンパク質のラセミ結晶化のための糖タンパク質合成を引き続きおこなう。Sep15とUGGTの結合の構造基盤をNMRなどを用いて明らかにする。また、EDEM活性の検出に向けた取り組みを行う。特に種々のPDIと共発現を行い、組み換えEDEMのマンノシダーゼ活性を検討する。新規の反応を種々糖鎖の合成や小胞体エンドマンノシダーゼ活性測定基質の合成につなげる。 ・2系統のマンノース切断経路における責任酵素の同定に取り組む。また不良糖タンパク質分解に関与する新規エンドマンノシダーゼ活性について、機能の解明や活性本体の同定にも併せて取り組む。独自に開発した化合物を用いた、細胞機能の調節を検討する。 ・ERp29とCNXの結合がどのような意義を持つかを解明するため、セルフダイマーを形成しないCNX変異体を作製する。また、発現タンパク質だけでなく、動物細胞におけるシャペロンダイマーの形成を評価していく。 ・MindinをモデルにしてC-Man化タンパク質の品質管理に関わるシャペロン関連分子を探索する。そのIn vitroリフォールディング系を構築し、細胞由来マイクロソーム画分からC-Man化が関与するシャペロン関連分子を同定し、C-Man化糖修飾の作用機構を明らかにする。また、C-Man転移酵素と考えられるDPY-19L1/3遺伝子の発現制御とMindinの小胞体品質管理機構の解析も進める。 ・標識ホスファチジン酸を合成し、PtdGlc の合成に関与するUGGT活性測定を図る。そのためにはより適切な検出系を模索する必要がある。LPGアナログの合成については、適切なデザインで、溶解性の問題をクリアしつつ高い活性を持つ化合物を探索する。
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