研究課題/領域番号 |
16H06291
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
沖 大幹 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (50221148)
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研究分担者 |
仲江川 敏之 気象庁気象研究所, 気候研究部, 室長 (20282600)
鼎 信次郎 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (20313108)
田中 賢治 京都大学, 防災研究所, 准教授 (30283625)
芳村 圭 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (50376638)
花崎 直太 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 主任研究員 (50442710)
山崎 大 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (70736040)
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研究期間 (年度) |
2016-04-26 – 2021-03-31
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キーワード | グローバル水文学 / 次世代型陸域モデル / 超高解像度地理データ / 長期間気象データ |
研究実績の概要 |
今年度(H29)は、昨年度に引き続き高解像度地理データ整備と次世代陸域モデルの開発を重点的に進めた。 ・地理データ整備では、昨年度に整備した全球高精度標高データMERITDEMをもとに、複数の水域データを統合して全球高解像度の表面流行データHydroMERITを構築した。山岳氷河では、Landsat衛星及びAW3D30(地形データ)を用いて、全球90m解像度での氷河表面デブリの熱抵抗値分布データの改良を行った。湖沼では、オープンソースデータのGeoNamesの地名情報を用いて、2000年代に作成された湖沼GISデータの湖沼に名前付けする作業を行い、2000年代に作成された湖沼GISデータの位置情報には1km精度が十分に確保できない可能性が示唆された。 ・モデルの開発では、昨年度に開発した次世代陸域モデルILS (Integrated Land Simulator)のプラットフォームの整備、要素モデルとの統合も進めつつ統合する要素モデルの開発を行った。河川では、全球の河道や氾濫域における土砂の生産・輸送・堆積といった動態を表現する全球土砂動態モデルを作成した。また、全球スケールでの斜面流動・広域地下水動態モデルのプロトタイプも開発した。氷河では、高解像度の氷河デブリの熱収支式を考慮した氷河の質量変化を推計するモデルのプロトタイプを開発し、熱抵抗値分布の組み込みに成功した。 ・長期シミュレーション準備では、拡張された全球水資源モデルH08を利用し、過去を対象とした時空間詳細な水需給のシミュレーションを行い、この水需給計算結果から従来の経験的指標による水資源評価の有効性と限界を明らかにした。氷河上で観測された気象データと再解析データを用いて陸面過程モデルSiBUCで氷河融解量を算定したところ、この地点では高解像度解析において、微地形を考慮したグリッド化が必須であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・次世代陸域モデルの基盤となる高解像度地形データ整備に関しては、標高データおよび表面流向データの整備が完了し、順調に陸域モデルと統合する研究段階に入った。既存陸面モデルで課題となってきた地下水過程の表現についても、実験段階ではあるが斜面流動-地下水動態モデルができあがり、全球モデルの枠組みで表現する見通しがたってきた。湖沼のデータ整備では、1 kmの高解像度シミュレーションを行う際の有効性と限界が確認され、今後の研究でさらなるデータベースの改良が期待される。 ・次世代陸域モデル開発に関しては、昨年度プロトタイプが構築された次世代陸域モデルを統合するIntegrated Land Simulator(ILS)が、引き続き開発されており、プラットフォーム、結合に用いるカップラー、I/Oモジュール、境界条件の整備がされている。次世代陸域モデルに必要となる要素モデルについては、全球動態土砂モデル、斜面流動・広域地下水動態モデル、デブリの熱抵抗値分布を含めた氷河の質量収支モデルなど、高解像度地形データを考慮したモデル開発が進んでいる。これら陸域モデルの各要素モデル同士の結合および大気・海洋モデルとの結合も現在順調に進んでいる。 ・長期シミュレーションの準備に関しては、全球水資源モデルH08を利用した過去の時空間詳細な水需給のシミュレーションが既に行われている。また、今年度にキルギス東部のKaraBatkak氷河で観測が実施され、高解像度の気象再解析データの検証も進みつつある。国際モデル相互比較プロジェクトのLS3MIPの準備も進んでおり、本年度はLS3MIPも関連する国際研究集会(HYDROLOGY DELIVERS EARTH SYSTEM SCIENCES TO SOCIETY 4)も開催された。 以上の状況から研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は昨年度までに整備を進めた次世代陸域モデルに必要な水文地形・氷河デブリ・湖沼などの高解像度データを陸域モデルに統合する作業を主に進める。 ・今年度までに開発した高解像度地形データを、河川氾濫スキームを始めとした次世代陸域モデルILSに統合する作業をすすめる。また、プロトタイプとして開発した斜面流動-地下水動態スキームを、陸域モデルと結合する方法を検討する。氷河では、全球90m解像度・氷河表面デブリの熱抵抗値分布データを用いて、熱収支式によって氷河の質量変化を推計するモデルを開発する。まず、現地観測データの豊富な中央ヨーロッパにおいて現在及び将来気候実験を実施し、デブリを加味した氷河融解量の将来予測を行う。湖沼では、最新の湖沼GISデータと地名データベースを利用して、湖沼名を同定する。また、観測データの日別値も参照できるようにWebデータベースを改修する。さらに湖沼データを河川モデルに統合して湖沼サブモデル・ダム操作モデルの高度化を試みる。
陸域要素モデルの統合および全球高解像度シミュレーションの実現に向けては、以下の研究を行う。 ・次世代陸域モデルILSをMIROCの大気モデルと結合させ、初期的な実験を行う。また、新たな土砂輸送機能をILSに実装し、全球土砂動態を解析する。さらに、ベクトル計算機及びSIMD構造CPUでの計算性能を伸ばすため、コードを最適化する。また、高解像度水循環シミュレーション(全球5分)の試験実施を行う。必要な入力気象・地理データを整備するとともに、ソースコードを一部変更し、省メモリ化を図る。また高解像度化に伴い、各部のコードの改良を行う。全球1kmシミュレーションの実現に向けて、キルギス東部のBordu氷河において積雪融雪過程の現地観測を開始し、山岳氷河域を含む集水域までをも考慮した場合の1km解像度気象強制力グリッドデータセット作成法の検討を行う。
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備考 |
(1)は、本科研に関わる情報発信を目的としたホームぺ―ジであり、プロジェクト内容の紹介、論文と学会発表の業績、関連する会合などの情報が記載されている。 (2)は、H29年度に本科研費で開催された国際研究集会であるHYDROLOGY DELIVERS EARTH SYSTEM SCIENCES TO SOCIETY 4に関する記事が載っており、国際的な注目度の高さが伺える。
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