研究課題/領域番号 |
16H06292
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
浅田 雅洋 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (30167887)
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研究分担者 |
宮本 恭幸 東京工業大学, 工学院, 教授 (40209953)
鈴木 左文 東京工業大学, 工学院, 准教授 (40550471)
西山 伸彦 東京工業大学, 工学院, 准教授 (80447531)
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研究期間 (年度) |
2016-04-26 – 2021-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / テラヘルツ電子デバイス / テラヘルツ光デバイス / 室温テラヘルツ光源 / 共鳴トンネルダイオード / 周波数可変発振素子 / テラヘルツ無線通信 |
研究実績の概要 |
① 電子デバイスと光デバイスを繋ぐテラヘルツデバイス物理:共鳴トンネルダイオード(RTD)テラヘルツ発振器の発振周波数や出力などの温度特性を詳細に測定し、共振器損失の電磁界シミュレーションを併用して、電子デバイスとしての微分負性コンダクタンスの周波数特性を抽出した。その結果、テラヘルツ帯の微分負性コンダクタンスが直流時から大きく低下すること、および、特定の周波数でピークになることを見出した。このピークから、光デバイスの動作である電子遷移がトンネル電流中に生じている可能性が示された。 ② テラヘルツデバイスの高性能化:①と並行して、高出力化のため、新たなアンテナ構造を持つ発振素子を提案・作製した。一つは誘電体薄膜と多素子ダイポールを積層した大規模アレイ集積構造で、1THzにおいて89素子で0.72mWとこの周波数の電子デバイスでは最大の出力が得られた。アンテナ間結合の改善により出力増加が可能である。2つめは共振器とアンテナを分離した2素子集積ボウタイアンテナ構造で、放射インピーダンス設計の自由度により、単体で高出力化が期待できる。初期実験として、2素子が同期した設計どおりの発振が得られた。また、バラクタダイオードを集積した周波数可変発振素子による位相同期回路(PLL)を構成し、スペクトル線幅1Hz以下のコヒーレンスの非常に高い発振に成功した。 ③ 高性能テラヘルツデバイスによる応用展開:バラクタダイオードを集積した広域周波数可変素子アレイ(約0.4~1THz)により、薬剤(アロプリノール)を例に用いた分光分析を行い、従来の時間分解分光と同じ結果や粉末でも測定可能なことを示した。また、異なる周波数と偏波の発振素子を集積したチップにより、テラヘルツ多重無線通信を行い、2周波数および2偏波多重それぞれにおいて、合計56Gビット/秒の大容量伝送を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
① 電子デバイスと光デバイスを繋ぐテラヘルツデバイス物理については、平成28年度の計画通り、共鳴トンネルダイオード(RTD)テラヘルツ発振器の発振周波数や出力などの温度特性の測定から、電子デバイスとしての基本パラメータである微分負性コンダクタンスの周波数特性を抽出し、より広い周波数範囲の微分負性コンダクタンスの直接測定と基盤となる理論の構築に向けて、計画通りに進展している。 ② テラヘルツデバイスの高性能化については、平成28年度の計画通り、アンテナ構造の出力への影響を把握して高出力化のための構造を提案・作製し、基本動作を得るとともに、平成29年度以降の計画の一部である、周波数可変素子の位相同期回路(PLL)の実験を前倒しで行い、スペクトル狭線化を達成した。アンテナ構造の考案は計画通りであり、PLLによる狭線化は計画以上の進展である。 ③ 高性能テラヘルツデバイスによる応用展開は、平成29年度以降に行う計画であったが、分光分析実験、および、周波数・偏波多重集積素子の作製とそれによる無線通信を前倒しで行い、基本となる成果をあげることができたので、計画以上に進展している。 以上の全体の進捗状況から(1)当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
①光デバイスと電子デバイスを繋ぐテラヘルツデバイス物理の確立:昨年度に引き続き、光デバイスと電子デバイスを繋ぐテラヘルツデバイス物理確立のため、共鳴トンネルダイオード(RTD)発振器の微分負性抵抗の周波数特性をオンウェハで直接測定するとともに、電子の遷移(光デバイス動作)と走行(電子デバイス動作)を同時に考慮した詳しい理論解析モデルを構築し、実際の素子設計に対応できる形に拡張してRTD発振素子の高周波化・高出力化のための構造を考案する。 ②テラヘルツデバイス高性能化:①の実験及び理論構築に基づき、高出力化のためのRTD層構造を考案するとともに、発振器に含まれるアンテナ構造の最適化を行い、これらを導入したRTD発振器を作製して高出力化を試みる。アンテナ構造については、昨年度提案した共振器と放射器を分離した新たな構造を用い、放射インピーダンスの設計に自由度が生じることを利用して、RTD素子の微分負性抵抗に対して正確に出力最大条件を満たすように電磁界シミュレーションによる解析と実験から最適化を行う。高周波化に関しても、高出力化と同様に①の結果に基づきRTD層構造を考案する。周波数の上昇とともに電子の運動が光子エネルギーが無視できないフォトンアシストトンネルになることを考慮してRTDの量子井戸層を設計し、高周波でも利得が得られる構造を得る。同時に、共振器に対しても、これまでのスロットアンテナを基本にした共振器の構造最適化による低損失化を行うほか、スロット以外の低損失共振器の可能性も検討する。これらのRTD層構造と共振器構造を用いて高周波化を図る。 ③高性能テラヘルツデバイスによる応用展開:昨年度の無線伝送の結果を拡張して、より多重の通信を行うとともに、昨年度得られた位相同期回路によりスペクトル狭線化した素子を用いて、分光分析、および、位相や周波数変調など種々の方式の無線通信を行う。
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