研究課題
本課題の目的は、時空間から解き放たれ、自由に心的表象を操作する能力-心の自立性-の発生過程を広範な種比較と発達比較により実証的に解明することである。平成28年度の主要な成果を記す。1)フサオマキザルにおける柔軟な記憶方略を実証した。遅延見本合わせ課題において遅延の長さを示す手がかりを見本提示時あるいは遅延開始時に提示すると、それに応じてサルの記銘やリハーサルが変化した。2)フサオマキザルを対象に、子どもとおとなの写真の概念弁別の新奇写真への般化を調べたところ、同種にはすぐ般化するが、異種には般化が見られなかった。幼児図式の一般性に疑問を提示した。3)ネコは物理的法則により生じる因果事象に従って環境の推理をおこなうことを示した。箱を振ってガラガラと音がするにもかかわらず物体が落ちてこないなどの期待違反事象を提示するとネコの注視時間が増加した。4)ネコは一度だけ経験した餌探索の経験を、予期せず再探索の機会が与えられたときに思い出して、適応的に行動できることを示した。こうした偶発的記憶の利用は、エピソード記憶の1要件である。5)イヌは人が扉を操作するのを見てその重さを推理できるが、これには自身が重い扉と軽い扉を操作した経験が必要であることを明らかにした。6)イヌは自身に都合の悪い事象を飼い主に見とがめられたときに、その原因を作った人物に視線を送ることが明らかになった。イヌの反応は、単に叱られることを予測した防衛的なものではないことがわかった(以上藤田)。7)成人の事象関連電位の解析から、非社会的な登場人物の分配行動に対して特有の電位変化を確認した(板倉)。8)視線測定により、大型類人が登場人物の誤信念を理解していることを明らかにした(平田)。9)京都市動物園で飼育されている大型類人について、画像解析の導入により、課題に向かう意欲や確信度を分析するための設備を整えた(田中)。
1: 当初の計画以上に進展している
全体として研究は着実に進んでおり、その成果の一部はすでに国際誌に公刊されている。特にネコを対象とした上記3)因果法則の理解(Takagi et al. 2016)、及び4)偶発的記憶(Takagi et al. in press)の研究は、論文の電子公開の直後に大きな注目を浴び、国内外の新聞やインターネット記事により広く紹介された。これらはいずれも直接的に心的表象の自在な操作を示唆するもので、少なくとも伴侶動物にはそうした能力の萌芽が備わっていることがすでに明らかになった。また、上記8)の類人の誤信念の潜在的理解(Krupenye et al.2017)は、ヒト以外の動物で初めて示されたものである。この研究も、発表されるやいなや大きな注目を浴び、国内外で大きく報道された。このように、初年度であるにもかかわらず大きな成果をすでに生み出しており、研究課題の達成度は、予想を上回るものと判断できる。
極めて順調に研究は進展しており、すでに注目すべき成果も複数手に入れることができたので、大きな計画の変更は予定しない。これまで通り、思考と推理に関する研究、メタ認知と心的時間旅行に関する研究、他者理解に関する研究の3つを柱に、研究を進める。これにより、目標は着実に達成できるものと考えている。平成29年度は、特に、昨年度研究協力者の妊娠・出産、学外研究室の移転などにより少し遅滞した鳥類の研究、特に昨年度研究環境を整えたオカメインコの心的機能の分析を大幅に進展させたいと考えている。計画するのはメタ認知ならびに将来を見越した行動の調整と、鳥類ではカラス類を除いてこれまでほとんど研究例のない社会的知性・他者理解の分析である。また、平成29年度には新たに1名の研究分担者を迎え、特にイヌと小型霊長類の視線解析ができる態勢を整える。具体的に計画しているのは、経験が場面や文脈の理解に及ぼす影響、社会的場面における予測的行動などの検討である。特にイヌでは、飼い主とイヌに共通の経験をさせ、場面や文脈の理解の様式がヒトとイヌ間でどのように異なるかを検討する。また、動物園飼育動物を対象にした研究環境が整いつつあるので、メタ認知などを中心に研究を進めていく計画である。全ての研究は、成果をみながら柔軟に修正しつつ実施する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (46件) (うち国際共著 3件、 査読あり 33件、 謝辞記載あり 28件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 15件、 招待講演 10件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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