研究課題/領域番号 |
16H06301
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 和生 京都大学, 文学研究科, 教授 (80183101)
|
研究分担者 |
黒島 妃香 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10536593)
板倉 昭二 京都大学, 文学研究科, 教授 (50211735)
田中 正之 京都市動物園, 生き物・学び・研究センター, 生き物・学び・研究センター長 (80280775)
狩野 文浩 京都大学, 高等研究院, 特定准教授 (70739565)
|
研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
|
キーワード | 比較認知心理 / 進化 / 認知発達 / 思考 / 表象 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、時空間から解き放たれ、自由に心的表象を操作するの能力ー心の自立性ーの発生過程を広範な種比較と発達比較により実証的に改名することである。平成30年の主要な成果を記す。1)ハトはよく知っている課題に直面する時よりも、初めて経験する課題に直面する時の方が、ヒント希求を多くすることが示された。2)捕食脅威を経験したメスのカンザワハダニは、未経験の個体よりも、卵が多く産める産卵場所を選択することが示された。3)フサオマキザルは、記憶課題において、事前に遅延時間が長いことが告げられた場合には、積極的に見本を記憶したり、リハーサルするなどして記憶忘却に備えることはしないことが示された。4)イヌもネコも同様に、ヒトの行動に従うと損をしてしまう場合にも、ヒトの行動に依存してしまうことが示された。5)フサオマキザルに同種とヒトのコドモ顔とオトナ顔の弁別訓練を行った後、類人、旧世界ザル、新世界ザル、食肉目など複数の種のコドモ顔とオトナ顔を提示してテストを行った結果、他種に年齢カテゴリーは般化しないことがわかった。6)10ヶ月児を対象に、視線追従と心拍パターンの関係を検討した結果、心拍パターンが視線追従行動を予測することが示された。7)動画を見ている時の類人の視線をアイトラッキングにより計測した結果、ヒト幼児やイヌでは直示的コミュニケーションの後により強く視線手がかりに反応することが知られているが、類人では同様の反応は見られなかった。上記の成果は、心の自立性の発生過程を考察するための重要な資料であり、上記以外の成果も多くが査読付き国際誌に公刊されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体として研究は着実に進んでおり、その成果のすでに査読付き国際誌に多く公刊されている。特に2018年度は、上記2)カンザワハダニの記憶研究(Murase & Fujita, 2018)、及び10)乳児における他者の視線追従と心拍パターンの関係(Ishikawa & Itakura, 2019)でプレスリリースを行い、新聞やインターネット記事により広く紹介され、多くの反響を得た。 本研究課題は、思考や推論、メタ認知、他者理解、という大きく3つの枠組みを設けているが、現状としてこれら全ての問いに対して、着実に研究は進んでおり、成果につながっている。キリンや爬虫類など、今まで比較認知研究分野においてほぼ扱われることがなかった種に対しても、機材調整や訓練は順調に進んでおり、今後の成果が見込まれる。よって、現時点として「おおむね順調に進展している」と評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
得られた成果は国際誌に順次発表できており、極めて順調に研究は進展していることから、大きな研究計画の変更は考えていない。各ラボの特色と実績を活かしつつ、多様な動物種を対象に、本研究課題の3つの柱である、1)思考と推理に関する研究、2)メタ認知と心的時間旅行に関する研究、3)他者理解に関する研究を継続して行う。 特に2019年度は、オカメインコの心的機能の分析、京都市動物園のキリンの認知研究、フトアゴヒゲトカゲの記憶研究を大幅に進展させたいと考えている。具体的には、メタ認知、心的表象操作、情動と記憶との関連に関する研究を実施する。また、イルカや魚類など水中生物を対象として、自己認識や、思考・推理に関する研究を実施する。具体的には推移的推論課題や、自己鏡像認知に関する研究を実施する。イヌやネコなどの伴侶動物を対象とした研究では、メタ認知研究、及び表象形成に関する複数モダリティーの影響を検討する。 本研究シームでは、ヒト乳幼児を含め、可能な限り多くの種を対象にして、生理指標(心拍変動、体温変動、ホルモン等)の安定的な取得方法と解析方法の確立を目指すことによって、表象と情動との関連の解明に役立てる予定である。全ての研究は、成果を見ながら柔軟に修正しつつ実施する。
|