研究課題/領域番号 |
16H06302
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
馬場口 登 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30156541)
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研究分担者 |
越前 功 国立情報学研究所, 情報社会相関研究系, 教授 (30462188)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | 生体・プライバシー情報の保護 / 真贋識別 / 詐欺のモデリング / 対戦型循環的実証実験 / メディアクローン |
研究実績の概要 |
本研究の目的を達成するため,(A)フェイク情報化の防止,(B)メディアクローン(MC)の生成,(C)MCの認識,(D)モデリング,(E)実証実験を進めた. (A)では,歩容認証システムに用いられる映像の全身像を保護するため,全身動作シルエットの匿名化手法を開発した.また,指紋認証に必要な指紋情報が画像から抽出可能と指摘すると共に,指紋復元防止手法を開発した(新聞等報道).さらに映像中の顔や全身像の匿名化の基礎検討を行った.(B)では,音声クローンの品質向上を目指し,リカレントニューラルネットワークに基づいた音声合成手法Deep Autoregressive Modelを提案した(Web報道).さらに,様々な人から大量に収集した肉筆文字画像の利用により,特定個人の肉筆の特性を再現する文書クローン生成手法を開発した.(C)では,歩容シルエットのクローンを識別するため,輪郭特徴量に基づいて,実写動画から抽出された真正シルエットと自動生成されたシルエットを判別する全身動作シルエットクローン認識手法を考案した.(D)では,MC攻撃の本質が,真正メディアとMCを人間が判別できず騙されることにあると考え,電話音声により人を騙すMCのオレオレ詐欺に最近の身近な例として着目し,人が騙されるときの思考や状況をモデル化した.その発表は国際会議で国際雑誌への投稿推薦を受け,国際雑誌に採択された.(E)では,音声メディアを対象に,対戦型循環的実証実験を開催した.音声クローン認識技術を競うASVspoof challenge 2017では,113チームが参加登録し,うち49チームがスコアを提出した.参加者は運営組織が提供した共通データベースを用いて音声クローン認識手法を構築した.共通データベースは非常に大規模であり,MCの事例として,多様な収録音声が公開された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(A)フェイク情報化防止のための生体・プライバシー情報などの保護手法の確立,(B)フェイク情報を起源とするメディアクローン生成法の具体化,(C)メディアクローン攻撃の防御シールドのメディアクローン認識による構成,(D)メディアクローン攻撃に関連したコミュニケーション系のモデル化,(E)実証実験とデータベースの作成・公開に着手した. (A)では,指紋の特徴点検出を妨害する疑似指紋パターンを指に装着することにより、視覚的に違和感なく、通常の指紋認証を可能にしつつ,画像からの指紋復元を防止しうる手法を実現した。また,個人の位置履歴の匿名化の有効性を実験的に示し,内心の保護の可能性を示した.(B)では,身体の自己遮蔽が生じるような動作に対しても有効である,全身の動作クローンの生成を試みた.また,文書クローン生成手法では、対象人物の少量の肉筆文字画像のみから、個人性と多様性を併せ持つMCを生成することを確認した.(C)では,MCの事例を収集するだけでなく、真正シルエットを様々な自己符号化器により僅かずつ変形したものをMCの事例とみなして認識器を学習することにより,高い認識精度の全身動作シルエットの認識手法を与えた.(D)では,オレオレ詐欺を数理論理的アプローチの一種であるチャンネル理論を用いてモデル化し,そのモデルに基づいて,情報の受け手が,意味不定性を伴う伝達情報の意味を推論するプロセスによって騙され得ることを示した.(E)では,ASVspoof challenge 2017を開催し,これまで難しいと言われてきた収録音声が比較的高精度に認識可能であることがわかってきた. 以上のように,MCの枠組みの提案や各テーマの実証実験が行われ,おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
(A)では,物理空間において各種センサにより取得され得る生体情報,あるいは各種センサによりセンシングされた情報が蓄積されるサイバー空間において,画像や映像に含まれる顔などの外見情報を保護する手法を開発する.生体情報保護については,これまでの指紋認証から静脈認証にも対象を広げる.また,k-匿名性の考えに基づいて顔画像の匿名化手法の開発を進める. (B)では,現在主流のアプローチは,フェイク情報化の基となる音声や画像などのデータを大量に収集し,これを学習データとすることであるが,任意の人物に対するこのような学習データの収集が困難な場合がある.そこで,MC生成対象人物とは異なる人物のデータを活用してMCを生成する方法などの検討を進める. (C)では,真正メディアに存在する生体由来の特徴が,特定個人のフェイク情報を起源とするMCに重畳されていないと考え,多様なメディアを対象に,MCと真正メディアを判別するMC認識手法の開発に取り組む.また,学習データとなる真正メディアとMCの事例が十分に得られない場合を考慮し,真正メディア(画像など)を少しずつ改変して学習データに用いる手法などの活用について検討を進める. (D)では,これまでにモデル化したオレオレ詐欺が,電話を用いた音声による騙し,つまり聴覚からの伝達情報とその付加情報による騙しであり,文書や画像,動画など視覚的な騙しのある対象も考察する必要がある.そこで視覚からの情報が関与する文書による騙しについて検討を進める. (E)については,MCの実証実験,データベース公開,および,共通データベース利用による研究加速のため,これまで以上に対戦型循環的実証実験(チャレンジ)を進めていく.
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備考 |
2017年4月~2018年3月の間に,本課題に関する14件の取材協力と,5件の受賞がある.
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