研究課題/領域番号 |
16H06303
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
篠田 裕之 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40226147)
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研究分担者 |
牧野 泰才 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (00518714)
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研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
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キーワード | マルチモーダルインタフェース / ハプティクス / 触覚 / 超音波 |
研究実績の概要 |
2019年度は、開発されたデバイスを用いた触覚の解明と、それらの知見を組み込んだ3次元ユーザインタフェースの開発を進めた。また、薄型デバイスの開発においては、現行実用デバイスの出力強度を上回ることができる素子構造を発見した。さらに空中ハプティクス全体に関係する基礎的問題として、位相切り替え時の放射圧変動や異音の発生についてその発生メカニズムを解明し、対処法を示した。 触覚の解明としては、ファントムセンセーションの生起条件を精密に評価する実験を行った。知覚の局在性が高い皮膚表層の受容器のみを選択刺激した場合と、深部受容器を刺激した場合とを比較したところ、その生起条件に大きな違いがないことが明らかになった。この結果は今後の触覚提示の設計のための重要な知見となる。その他、これまで未着手であった顔部での基礎触覚特性を明確にするとともに、快・不快など、曖昧な感覚の評価・設計を効率化する手法についても研究を進めた。さらに上半身全体でのインタラクションが可能なテストベンチとして大型視触覚クローンの開発に着手し、基礎実験を進めている。 3次元ユーザインタフェースにおいては、逆問題解による力分布再現の精度を評価しつつ、能動的な把持・接触動作の中でのリアルタイムフィードバックによってVR物体のエッジなど、詳細な形状情報まで提示でき、さらにクリック感なども再現できることを実証した。また、受動的な状況において、センサで計測した触感データを再現する実験を行い、テクスチャ再現の可能性を確認した。操作誘導型インタフェースにおいては、焦点を高速掃引し、ユーザが能動的にその方向を探ることができる手法を提案・実証した。空中浮遊型インタフェースにおいては、人間が立って活動できるワークスペース内で複数のバルーンを制御できることを実証し、デモ展示を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大規模フェーズドアレイの同期動作についてはすでに詳細な検証が行われ、基礎実験を含む多くのシステムで活用されている。その仕様は外部にも公開され、自由に活用できる状況が整備されている。またこれまでフェーズドアレイは専ら超音波送出のみに使用されていたが、超音波を用いたセンシング機能の搭載についても現在検討を進めている。 大規模フェーズドアレイを用い、オクルージョンを前提としながら反射・回折する超音波場の逆問題を解く問題についても、ある程度フェーズドアレイの規模を絞ればリアルタイム計算できるようになっている。より精密な力分布再現は、今後の計算機の性能向上とともに進歩していくと期待されるが、その開発の方向性を明確に示すことができた。 薄型デバイスにおいては、従来デバイスを上回る出力強度を確保する方法を見出すことができた。また、ファントムセンセーションの特性解明や顔部知覚特性評価など、触覚の解明研究も進展した。音響放射圧を用いたVR型、操作誘導型、空中浮遊型の各インタフェースが確実に進展しただけでなく、ミストと超音波を用いた遠隔からの冷覚提示法も見出されている。音響流によって冷覚を提示する手法については2018年度にすでに提案していたが、特に効果的・瞬時的に皮膚を冷却する条件が明らかになった。これらの触覚提示手法の開発だけでなく、機械学習を用いた新しい触感評価・設計法についても研究の端緒を見出すことができている。 このように、当初の計画を予定通り進めた上で、さらにそれを越える進展があったものと自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2020年度においても、本研究課題の各テーマを推進していく。予定していた課題については順調に進展してきたが、ここまでの成果はまだ入り口に過ぎないと考えている。 非接触での触覚提示技術は、特にポストコロナの時代において、物理的接触なく自身の意思をコンピュータに伝達する媒体としてその重要性が高まってくると考えられる。感染症防止という観点を考慮した実用的インタフェースとしての活用は、今後の新しいテーマとなる。3次元インタフェースとしての従来の課題をさらに推進していくとともに、新しい切り口での研究も開始していきたい。例えばこれまでのインタフェース研究では映像と触覚の組み合わせが中心であったが、さらに音像との組み合わせについても検討する。 非接触であることを活かした触覚解明研究についても、現時点までに科学研究ツールとしての整備が進み、多目的に活用できる段階にある。これまでにも触覚パーシュートやLM法の発見、ファントムセンセーションの生起条件解明などの成果は出ているが、今後は冷温覚も含めた触覚提示がもたらす心理的効果なども重要テーマになると考えられる。すでに非接触の刺激を組み合わせた快刺激の合成なども可能になりつつあり、それらの効果について科学的エビデンスを蓄積していくことが今後の課題となる。マルチモーダルでの効果を検証するためには、2019年までに準備した大型視触覚クローンを活用する。動作の中で様々な触感を再現し、その効果を検証する。触覚刺激の健康・医療応用についても検討を進める。
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